怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

【初動～アイドル～】

　後木真央は今日という日を待ちわびていた。
　今日は人気急上昇中のアイドル、壺井魅紗歌が寝子島にやってくるのだから。
「にゃふっふ！　魅紗歌さまが寝子島に来るのだ今度こそ叔父貴のハートを握り潰す逸品ＧＥＴなのだ♪」
　なぜ後木が魅紗歌のスケジュールを把握しているのかというと？
　まず、彼女の故郷に居る叔父貴さんがアイドル好きらしい。
　後木は正月のお年玉増額の便宜を図るため、叔父貴さんにアイドルの激レアアイテムを~~わいろとして~~贈呈すべく日々の情報収集を欠かさなかったのだ。
　いつの間にかディープなアイドルオタクが集うネットコミュニティに出入りするようになり、彼女は気が付けば立派なアイドルオタクになっていた。
　特に魅紗歌の人気の台頭ぶりに目を見張る後木は、壺職人と呼ばれる魅紗歌の親衛隊的ファンコミュニティにも属している。
　もちろん、魅紗歌の楽曲は全て網羅、歌詞も全て頭に入っている上に振り付けも完璧にコピーできる。
　いあゆる“ヲタ芸”も合わさってキレキレのダンスが筋肉細胞の１つ１つに染み付いている。
　実際、後木はどこに出しても恥ずかしくない痛いファンの鑑であった。
「ファッ！？　先輩方がアポなしで魅紗歌さまを見守るために寝子島へやってくるのだ？　真央ちゃんがガイド役を買って出るのだ突発オフ会なのだ♪」
　ちなみに、アポなし見守り行動とは、“現場の入り待ち・出待ち”や“道中の魅紗歌の行動のチェック”、はたまた“不用意に魅紗歌に近寄ってくるやから排除”を意味する。
　~~ただのストーカー行為とは違うのだ。愛があるから！~~
　後木は突発オフ会をコミュニティ内で提案すると、過剰なまでの好反応が返ってきた。

『ネ申　降　臨』
『やべぇよ寝子島はんぱねぇガイド希望者出るとかまじやばい』
『寝子島ってふんどし着用しないと入島できないって本当？？』
『マジかよ、みさリンも今日１日はふんどし着用ってことじゃねーか』
『俺の股間のサイリウムがワンサイズ大きくなっちまったぜ』
『おう、その豆電球はやくしまえよ』
『お前の股間、光るのか……（困惑）』

「さすが先輩方ノリノリなのだ魅紗歌さま見守り行動が賑やかになるのだ～」
　後木もノリノリで準備にとりかかかる。
　スマホへ菜々緒から電話の着信があったことに気がつかないほど興奮していた。
　……この電話こそ、今回の事件の協力要請なのだが後木はこれを無視してしまった。
　後木が今回の事件に関わるのは、まだまだ先のことである。

「準備万端なのだ全力前進ゴーなのだ♪」

　朝野未沙も壺職人の１人である。
「わー、マオキャットさんの突発見守り会！　生みさリンを至近距離でハァハァできるチャンス！」
　投稿者“マオキャット（後木のコミュニティ内のハンドルネーム）”の呼びかけの書き込みに彼女は即座に返信した。
『行きます行きます！　突発見守り会だ～！！　あ、マナーは守りますよ？』
『そうだ、みさリンの同級生とかでミーハーな子とかと知り合いって人いませんか？』
『ファンとしてみさリンの全てが知りたいし、是非お話してみたいです！』
　ハンドルネーム“てんたくる”が投稿し終えると、スマホの受話器に顔を近づけた。