段ボランド de ファイト｜リアクション

段ボランド de ファイト

　佐藤英二はこの頃、段ボール材がわんさと山のように積まれた場所に到達していた。
　よくも運び込んだものだ。薄茶色の段ボールばかり、ちょっとあきれてしまうほどにびっしり集められている。その大半がくくった紐すら解かれていなかった。
「リサイクル工場ってこんな感じなのかな……？」
　この場所では、段ボールの山は段ボールのままだ。恐竜や兵器ではなくただの梱包材なのだ。
　それだけに怪しい。調べてみる価値がありそうだ。
　英二は山の中に分け入った。
　――きっと彼はここにいる。
　そんな予感がした。

　謎を解かんとする頭脳と頭脳が、今この場所で対面した。
「進め！　ＭＭＲっ！　……って、キミはたしか新聞部だね！」
　と身構える鬼河内萌と、
「その通りだ。というかそもそも、部長だ」
　八神修である。
　密林の開けた場所で、運命のいたずらにより彼らは顔を合わせていた。
　なおこのとき、萌は例の簡単コスプレ箱ニャンダムモードのままであり、修は傘状にした段ボール盾で身を隠している状態だった。
　萌は修の顔を知っていた。だから即、新聞部だと言えたのだ。萌は彼に鋭い視線を向けている。それはもう、摩擦で炎がほとばしりそうなほどの視線であった。
　この世の裏に隠された真実を探るＭＭＲにとって、いわゆる表メディアの代表たる新聞部は強力なライバルである。新聞部のほうはそんなことは思っていないだろう……というよりＭＭＲの存在をそもそも知らないかもしれないが、誰がなんと言おうが彼らはＭＭＲの天敵なのである。しかも彼は八神修といってその部長なのだから、萌からすればラスボスみたいなものといってよかった。
　一方で修は萌の服装、というより彼女が、服の上にまとった段ボールに注目していた。
「もしかして君の名前は……『NYANDAM』か？」
「そんなわけないでしょ！　これは鎧！　アーマーの名前だよ！　もちろんいまボクは今、ニャンダムと一体化しているとは言えるけど……でも、ボクには鬼河内萌って立派な名前があるんだからね！」
「そうか、なら良かった」
　修は胸をなで下ろした。萌の着るアーマーの名を見て、ちょっと不安になったのだ。
「だったら試してみる価値はある……か」
「試す？　なんのこと？」
　だが修は返答せず萌に背を向け、目の前をうろちょろ走る軍用バイクを手早く捕まえた。
　バイクといったってもちろん段ボール製の偽兵器だ。大きさも手乗りサイズである。わしづかみにするにはちょうどいい。しかしなかなか精巧にできてはいた。バイクは、修の手から逃れようと身をよじっている。
「なにやってんの？」
　萌が問いかけるも修は無言で、ペンを使ってバイクの車体に『八神修』と書きこんだ。
「だからなにやってんの、ってば！」
　萌が大きな声を出すのと、修が手にしたバイクを放すのは同時だった。
「これを試してみたかっただけだ。段ボール兵器に自分の名前を書いて所有権を奪う……！　どうだ！」
　されどどうにもならなかった。バイクはＵターンして修に体当たりし、さらには萌にも攻撃しようとする。
「荷電粒子ビーム竹刀！」
　だがその前に……ぐしゃっ、萌が竹刀でこれをたたきつぶしていた。
「どうやら実験は失敗みたいだね、新聞部の八神部長？」
「らしいな。ならやはり、隠密行動を取りながらダンボー氏を探すか」
　傘に身を隠す修だが、一度だけ萌に振り向いて言った。
「俺はこの密林地帯の謎を解き明かすつもりだ。……一緒に来るか？」
「えっ！？　新聞部と我がＭＭＲは敵同士だよ！」
　萌は腕組みする。
「けど……呉越同舟という言葉もあるよね！」
　――ＭＭＲって……何だ？
　よっぽど聞こうかと思った修だが、それを問いただしても得るものはないと結論づけてそのままにしておくことにした。だから修は「そうか」と、とりあえず返事をするにとどめる。
　そんなことより未来ゾーンを探そう。
　それにしても、未来はどっちなのだ。

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