寝子島の片隅に、段ボール芸術家が住み着いたのは一ヶ月ほど前のことである。
もちろんこの『段ボール芸術家』なる呼称は天下無敵の自称であって、実際にそういうジャンルの芸術があるのかどうかすら定かではない。
ともかくも現れたのだ、その男は。ボサボサに伸ばした髪にヒゲというモップみたいな風貌で。
段ボール芸術家は段ボールを愛する者であった(まあ当然か)。彼は島の一角に拠点を定めるや、どこからか大量の段ボールを持ち込んで、意気揚々と作業に取り掛かった。一応、行政の許可はとったということだが、そのくわしい内容については怪しい。
さて彼は基本手作業、しかもたったひとりだったのだが、それでわずか数週間のうちに、段ボールだけを使って絶景を築き上げたのであった。
それはまるで現代に蘇ったパノラマ島奇譚! ……うん、ごめん言い過ぎ……言い過ぎではあるけれども、それでも素材が段ボールオンリーということを考えれば稀有壮大、驚天動地にして前代未聞の奇っ怪な光景であった。
おお! 見よ! 見よ! それが彼の作り上げたこの
『段ボランド』である!
過去・現在・未来をテーマにしたある意味壮大すぎるこのテーマパークでは、ありえない光景が段ボールによって作り上げられている。
段ボールで作られた巨大なティラノサウルス・レックスがやっぱり段ボールの牙をむき出しにして、宿敵トリケラトプスにとびかかろうとしていた。もちろん、トリケラトプスのほうだって段ボールだ。背中のトゲに『みかん』と書いてあるのが泣かせるではないか。
他にもずらずら、いまはすでにないたくさんの段ボール製恐竜たちが闊歩するのが過去、すなわち古代のゾーンである。
うってかわって現代のゾーンでは、第三次世界大戦が始まろうとしていた。
つまり、段ボールでできた装甲車や戦車、戦闘機、さらには戦艦に潜水艦の数々が、細かい時代とか設定とかでたらめながら敵味方に別れ、決戦のときを迎えんとしていたわけだ。水がないのに戦艦やら潜水艦があるのはいったいどういうわけなのか。
実はここで段ボランドは終わりなのだった。上では「作り上げた」と書いたが、真実をいえば未完成、建設途中なのだ。
いよいよ最後となる未来のゾーンを作っている最中で、例の段ボール芸術家が姿を消したのだ。
なんと段ボールの恐竜に兵器が、わらわらと動きだしてしまったというのだ。信じがたい話だが寝子島のことだから、あってもおかしくはない。
とすれば芸術家は逃げ出したのか? 段ボールにとらわれたのか? それとも……?
なお段ボール芸術家の名前は、『アルチュール・ダンボー』だという。
……芸名であろう。間違いなく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うぬ……これは一体何事か!?」
彼女の名は
ルーシー・R・マクミラン。容姿端麗、銀色の髪、自他ともに認めるフォトジェニックな美少女だ。
自分自身を一級の芸術と考えるルーシーはこの日、思いがけずこの段ボランドに足を踏み入れてしまった。芸術は芸術を知る。段ボール世界もひとつの芸術だとすれば、これは芸術と芸術のぶつかり合いということもできよう。とすればこの出会いは偶然ではなくて必然であったというのか。
「ありえぬ!」
ルーシーは断じた。断じつつも木陰に隠れた。
おかしな話だ。段ボランドがどれほどの規模かは知らねど、少なくともこれほど広大なはずはない。ほとんど密林、うっそうと緑が生い茂っているではないか。だがこれくらいならまだ理解はできよう。百万歩くら譲れば、少なくとも理解だけなら。
「しかし理解できんのは……!」
ルーシーは伏せた。
段ボールの複葉機が、彼女の頭上をかすめていった。実際の戦闘機に比べればずいぶんと小さい。『42型ワイドテレビ』と胴体にばっちり書かれているところからして、その箱をひとつ改造して作ったもののようだ。けれどもなかなかよくできていて、男の子にプレゼントすれば喜ばれそうである。……もっとも、段ボールを丸めた弾丸をぽんぽん、撃ってくればあまり喜ばれまいが。(当たると結構痛い)
どうやら複葉機は彼女に気がつかなかったようで、どこかに飛び去っていった。
理解できないのはこの状況だ。段ボールの恐竜、段ボールの兵器、これらが確実な悪意を持って、ルーシーを攻撃してくるのだ。なにか一つの意志のもと、操られているかのように。
「いつまでも逃げ回ってもいられぬ。どうやら」
立ち上がってルーシーは拳を固めた。
「力づくで脱出せねばならんようだな!」
謎ゾーン段ボランドにあなたは迷い込んだ。動く段ボール芸術たちを撃破せよ!
相手はしょせん段ボール、拳で殴っても倒せるし、カッターで切り刻むも容易だ。
けれどもご用心、束になると段ボールって重いし案外硬いので。
あと、火気厳禁でお願いしたい!
桂木京介です。
ライトなアクションアドベンチャーといったお話です。
敵が襲いかかってくる! といってもまあ、段ボール製なので大けがはしません。むしろ、蹴って殴ってストレス解消、くらいの気持ちで臨んで下さいまし。
楽しく明るく大暴れ、みたいな展開にしたいところです。もちろん、段ボールに追いかけられて逃げるというのもありです。
楽しく暴れたり逃げ回ったりしているといつの間にか終わります。
舞台は異空間、ジャングルのようになっております。
ただ、雨が降ると台無しになるのは丸わかりなので、ずっと雨は降りません。
オープニングにも書いておりますが、火が出ると瞬時にして大火事になりかねないお話ですので、火気で戦うという行動はお控え下さい。(『ライターで火をつけてやろうかと思ったけど、やめた』くらいのアクションなら大丈夫です。)
特に果たさなければならない使命や、解くべき謎というのはありません。
とはいえなにか目的がほしいという人もいらっしゃるかと思い、『芸術家アルチュール・ダンボーを探し出す』というミッションを設けましたが、これにこだわる必要はないので、誰ひとりダンボー氏を探さなくても大丈夫です。
敵は恐竜と近代兵器のどちらかです。どちらも実際のものよりはずっと小さいのでご安心を。
ゾーン分けがなされており、恐竜ばかりが出る地帯と兵器ばかりが出る地帯があります。
どっちを中心とするか、アクションに書いておいていただけると助かります。
……もしかしたら未来のゾーンもあるかもしれません。
●NPCについて
以下のNPCに登場可能性があります。
詠 寛美:「なんなんだこの場所は!」と怒りながら大暴れしています。
南波 太陽:「うわこれマジっすか!?」と逃げ回っています。助けると「マジ感謝!」されます。
五十嵐 尚輝:こういう状況にはたぶん全然むいていない人です。本を読みながらぶつぶつ言いつつ歩いています。周囲で何が起こっても気にとめません。(※ろっこんは発動しっぱなしです)
●NPC関連のご注意
展開によっては登場しないNPCもあります。また、相手があることゆえ必ず希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい。
NPCと行動を絡めたいかたは、そのNPCとはどんな関係なのか、また文字数に余裕があればこれまでの経緯等も書いておいていただけると幸いです。(というか、ないと困ってしまいます……)
それでは、次はリアクションでお目にかかりましょう! 桂木京介でした。