【中間テスト】そんなこんなの最終日｜リアクション

【中間テスト】そんなこんなの最終日

　　　三限：古文
　古文の問題を目にして葉利沢倫理子の顔が綻ぶ。休学明けとは思えない。すらすらと解答欄に答えを書いていく。
　これは、こう。
　問題を解く度に心の声は明るさを増した。一呼吸の間も空けないで次の問題に目を向ける。
　こうして、うん、大丈夫。
　残りの問題が少なくなってきた。急に倫理子の表情が曇る。手の動きは緩慢となって目に怯えが見え始めた。
　まだ問題はあるから。一つのことに集中して。
　自分自身を心の中で励ました。倫理子は儚い笑みで頷いて問題に全神経を注ぐ。
「……このままでは」
　残りの設問は二つとなった。追い込まれた顔で倫理子は手を止めた。瞼を閉じたあと、抗うように頭を振る。
「集中しないと」
　喉から声を絞り出す。苦しげな表情で空欄を埋めた。またしても手が止まる。全ての空欄が文字で埋め尽くされた。
　止まらないで。動き続けて。
　心の声が急がせる。思考の停止を強く拒絶した。
「そうよ、見直しが残っているわ」
　倫理子は目に涙を滲ませながら見直しに追われた。一回目が終わると二回目に突入した。
　止まらないで考え続けて。
「そう、見直しよ」
　見直しは繰り返される。忌まわしい記憶に追い付かれないように全力で走り続けた。
　復学を果たしたものの、中学二年生に負った傷は癒えていない。油断をするとフラッシュバックとして表れる。その都度、倫理子は子供のように逃げ惑った。
「まだよ。見直しは続けるわ」
　その独り言を耳にした女子が横目で窺う。倫理子は答えを指で示しながら見直しに励んでいた。最初から関心が薄いのか。ふーん、と気のない声で視線を戻した。
　倫理子の事情を知っている者は限られている。ほとんどの者は、病弱でやや神経質な人、という認識であった。
「まだよ」
　テストの時間が尽きるまで、倫理子は見直しを止めなかった。闇を怖がる子供の姿で懸命に走り続けた。