声のない世界で｜リアクション

声のない世界で

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午後の授業を乗り切ったからといって、それで万事解決というわけではない。
綾辻綾花を待っていたのは、図書委員の仕事だった。
しかも今日は、カウンター業務のはずである。
声がでなくてもお仕事はできる。できるけど、カウンター業務は流石に厳しいものがある。
しかもこの状況にはテオが関わっているらしいから、しばらくは戻りそうにない。
ので、
『すみません　今日喉の調子が悪くて声が出ないんです。
他の業務にまわして頂いてもいいでしょうか』
と素直に事情を史書の早川珪先生にお話することにした。正確には筆談だが。
「おや、風邪かい？　体調が悪いのなら、他の業務にと言わず帰ってもらっても大丈夫だよ？」
気遣わしげな表情を浮かべる早川先生に、
『いえ、喉以外は大丈夫なので』
済まなさそうに書いた紙を見せる。
「うーん、そう……？　だったらそうだねえ……前に話してた企画コーナーの作成、お願いできるかな」
以前に図書室の企画コーナーの新しいネタとして話していた、『寝子島出身の作家特集』。
そろそろ、それに手を付けなければならない頃だった。
「あ、でも無理はしないで。何かあったらすぐ僕を呼んで……って声が出ないのか。出来るだけこっちから様子を見に行くようにするから」
『わかりました』
ただまあ、そもそも前にも話していたことではあるのだけれど。
やはりというか案の定というか、寝子島出身の作家って数が少ない。
寝子島出身作家の本だけだと、明らかにスペースが余ってしまう。
そこで綾花は考えた。
「綾辻さん、調子はどう……って随分色々と持ってきたね？」
様子を見に来た早川先生が、目を丸くする。
作家の本はもちろんとして、寝子島の地図や寝子島の猫写真集など――ざっくり寝子島関連の本が並んでいた。
平置きで見やすさもばっちりだ。
企画スペースを眺める早川先生は感心した様子で、綾花もちょっと鼻が高い。
そうだ、と先生に聞いておきたいことを思いついた。
いつものように言葉で聞こうとして、声が出ないのを思い出す。
慌てて裏紙に書いたものだから、字がちょっと乱れてしまったのを気恥ずかしく思いつつ、
『寝子島の郷土史の本ってありますか』
「そうだねえ……確か歴史系のところに１冊か２冊あった気がするね。持って来るよ」
『ありがとうございます』
ぺこりと頭を下げる。
こういうちょっとしたやり取りにも手間取ったりして、声が出ることのありがたみを感じずにはいられない。
それに早川先生や他の図書員の人達も気を使ってくれるから、いつもより人の優しさに気付けているような――そんな気もした。
そんなこんなで企画スペースの作成を進めていると、
「すいません、この本って何処にありますか？」
利用者の生徒に声をかけられた。手には探している本のタイトルが書かれたメモ。
声が出ないから、棚の場所はうまく伝えることができない。
だけど、本の場所の案内も図書委員の大事な仕事。
ついてきてください――と身振りで合図して、目当ての本の所まで案内するのだった。