声のない世界で｜リアクション

声のない世界で

◆
午後の授業も、残す所あと一コマ。
というところで、宮祀智瑜は頭がちょっと熱いことに気付いた。
次が桐島義弘先生の授業だし、ドキドキして顔が熱くなっているのだろうか。

なんて思っていたのだけれど。

――授業中、わからない問題があって義弘先生を呼び止めようとした時だった。
「　　」
……あれ？
（声が出ない？）
思わず、周りを見回した。
ぶつぶつ言いながら問題解いてるクラスメイトも居るし、智瑜がそうしようとしたように義弘先生を呼び止めているクラスメイトも居る。
ということは、声が出てないのは自分だけ？
（うーん、どうしよう）
手を挙げれば気付いてくれるだろうけど、声が出ないのに気付かれてしまいそうだし。
そうすると心配をかけてしまうし、と考えた末に。
ノートに【分からない問題があります】と書いて、先生に見せることにした。
気付いてくれるかな、とちょっと気になったけどそこは流石義弘先生。
ちゃんと気付いてくれました。
声が出ないので、問題のわからないところをペンで指したりノートにささっと書いたりして質問。
若干顔が赤いのも含めて、バレてないといいのだけれど――と思っていたら。
「……質問は声に出してくれていいんだが、どうかしたのか？」
一言も言葉を発さずにいることに、小声でつっこまれた。
どきっとしたものの、すぐさま曖昧に笑顔を作ってみせる。
ふにゃふにゃとした笑みで、「何でもないですよ。大丈夫ですよ」とアピール。
「……だったらいいんだが」
少し釈然としなさそうな顔をする先生に、ちょっとだけ申し訳無さを覚えつつ。
ああ、なんだかますます顔が熱くなってきた気がする。
（うーん、これって風邪かも）
でも大好きな義弘先生の授業だから休みたくないし、放課後に保健室に行って診てもらおうか。
そんなことを考えつつ、授業はしっかり受けて問題は時間をかけて解いていたら――。
ぶる、っと。背筋が震えた。
（あれ？　寒気もしてきたかも）
先生に渡す為、遅くまでマフラーを編んでたのが原因だろうか。
だとしたら、なおのこと先生には言えない。
しかし、先生もそんな無理に気付かないほど鈍くはない。
「宮祀、大丈夫か？　体調が悪いなら、保健室に――」
とうとう気づかれ――って、あれ？
先生が二人に見える？

そんなこんなで保健室へ行ったら、やっぱり風邪みたい。
ちょっと安静にしたほうがいい、ということでベッドでお休みすることに。
天井を見ながら、ぼーっとする頭でうつらうつら。
確かにこれは、安静にしてないとダメかも。
ああ、でも。
先生と喋れないのは辛い、です。