餃子の闘将｜リアクション

餃子の闘将

「今日は『おひとりさま』ではないのです！」
　両親と連れ立って、金剛優芽は笑顔を見せた。
　普段共働きで忙しい金剛家の両親。旧市街でギョーザフェアが開催されているときき、久々の一家団欒で繰り出したのだった。
（せっかくの食べ物のお祭りですから、家族で遊びに来るのもいいですよね♪）

「全部のお店を食べ歩く！」と張り切る父。
「あらあらダメですよぉ～」とやんわり窘める母。

　頼りになるのに、どこかあっけらかんとした父親と、おっとりのんびりしながらもしっかり手綱を握る母。
　二人の性格は、そのまま娘の優芽に引き継がれたようだ。

　両親ともに忙しく、平日はなかなか表に出かけることはできない。
　だから休日は、なるべくこうして家族で出かけるようにするのだ。

（まぁ……）
　はしゃぐ両親の姿を見ながら、優芽はちらりと考える。
（その……そうして帰りが遅いので、バレずに済んでいるのですが……）

　金剛優芽。
　一見普通の、ちょっと地味目な女子高生。
　だが、裏ではシーサイドタウンを根城にするレディースグループの総長である。
　抗争の火種くすぶるレディースの派閥争いを、持ち前のおおらかさで収めているのが彼女だった。
　寝子島の夜が血煙で染まらないのは、彼女の仕切りによるところが大きいとか大きくないとか。
　それでも、両親に秘密を持ってしまうのは、優芽の本意とは外れていた。

　――あら？

　ふと気が付くと、両親がいない。
　慌ててあたりを見回すと、テーブルに座ってお酒を楽しんでいる。
　意気投合したのか、ちょっと派手目のおねーさんや、日本人ではない紳士もいる。
　明るい父親は、いつも場の中心である。
「きゃはは、おとーさん、良い飲みっぷり！」真境名アリサの笑い声がはじける。
　旧市街の二階に住む彼女、ただならぬ様子を感じ、昼からビール三昧である。
　周囲も巻き込んで、餃子ビールパーティを間断なく繰り広げている。
「いやー！　餃子と言えばもうビールしかないでしょ！」

　時折両親が気遣った視線を送ってくれる。
　どうしよう……優芽は考える。

　そのとき、一人の少女と目が合った。
　スラブ系の透けるような肌。光沢のある白銀の髪。
　冬の冷たい海のような、ウルトラマリンの瞳。
　どうやら、両親と食事を楽しむ男性の娘の用だ。

　優芽は、彼女に顔を近づける。
　少女は、餃子をひとつぱくっと食べ、優芽に差し出した。