餃子の闘将｜リアクション

餃子の闘将

　通りがかるのは綾辻綾花。
　旧市街で餃子フェアをしていると聞き、やってきたのだ。
　
　　いろんな味を堪能するのも目的だが、何より……と彼女は、財布の残高を思い浮かべる。
　――今月の食費、浮かせられるかも？
　寮暮らしで自炊をしている彼女、しっかり家計を把握し、節約できるところは節約する。
　聡明で堅実。彼女らしい発想だった。
　　　
　とはいえ、いつもより騒然としている旧市街。自分ひとりでは心細い。
　誰か知り合いでもいれば……。

　――綾花ちゃん！

　声がかかる。
　一際にぎわう大きな屋台、その奥で餃子を仕込んでいる華菜子だった。
　餡の製作、餃子包みは店内、焼きと販売は表のブースで。
　餃子を包む場所はガラス張りで、外から見えるようになっている。
　うかつに調理場に入り込まないよう気を使いつつ、綾花は華菜子に駆け寄る。
　同じ一年四組の顔見知りだった。
　
「お腹を空かせているお客さんのために、いっぱい作るアル！」
　喋りながら、華菜子は餃子をどんどん包んでいく。
　実に鮮やかな手つきであった。
　瞬く間に消えていく餃子の餡の山を見て、綾花は目を丸くする。

　仕込みや煮炊きなどは完璧な華菜子だが、実はトータルの料理はラーメンしか作れない。
「食べてくれる人の顔が思い浮かばないと、料理ができない」という料理人がまれにいるというが、今の華菜子の心情も、それに近いのかもしれない。

　なくなってしまえば、また作ればいい。材料はシンプル。
「ひき肉と白菜、あとは鶏がらと調味料……。
　ニンニクは入れないから、誰でも気軽に食べられるあるヨ」
　意外そうな顔をする綾花。自分が作るものとさほどかわらない。
「シンプルだからこそ、細かい下ごしらえが重要アル」
　白菜はとくに、水気を切らないとべたべたになっちゃうから、そこは注意あるヨ。
　レクチャーしつつ、華菜子はぱぱぱっと餃子を作っていく。

　それにしても、ものすごい勢いだ。
　名にしおう『猫島軒』のギョーザ。
　作られた端から焼かれ、蒸され、煮られる。
　生産スピードもマックスだが、それ以上に売れていく。
　とても、生産が追い付かない。
　――あと、餃子大食いコンテスト用の餃子も用意しないと……。
　――フライングギョーザキャッチの時間はいつだ？
　てんてこ舞い。
　人手が足りない。
　誰か、助けがいれば……。

　華菜子が、綾花を見ていた。
　華菜子だけではない。
　一同が、綾花を見ていた。
　クラスメイト大好きな華菜子。普段からクラスメイトについては、あちこちでしゃべっている。
　――優しくて面倒見のいい、料理上手な綾花ちゃん。
　きょとんとする綾花。

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