餃子の闘将｜リアクション

餃子の闘将

　そして、超高級餃子が、太陽に向かって射出！

「うおおおおお！！　高級餃子あああああああ！！」
　天高く飛翔する新しき太陽、本居陽毬。
　身体能力、食欲、すべてが一流。
　慢性金欠の彼女。この機を逃せば、高級餃子を口に入れることは二度とできない。

　だが、彼女と拮抗し、さらに二重、三重にフェイントを重ねる姿が二つ。
「おりゃあ！」
「どっせいいいい！！」
　三夜と志田、上る両の朝陽。
　黒か、白か。
　
（さすが寝子島……）
　聞きしに勝るカオスの版図。
　ソバージュの髪を揺らし、陽毬はそれでもさらに高みへ。
　
　傾きかけた午後の陽射しに映える、三つの影。
　いずれ劣らぬ暁の輝き。天かける欲望の翼。　
　だが、王者は一人。不倶戴天！
　食欲が、彼らをさらに天へ飛翔させる！
　
「物理！　からの！　餃子餃子餃子！」
　ヒャッハー！　歓喜の雄たけびを上げる三夜。

　そこを狙っての刺客。太陽を貫く刃。
「美味い餃子は誰にも渡さん！」
　空腹のイカロス、御剣刀。
　高く、何よりも高く飛び上がる。
　衝撃の伏兵に、拮抗した力が崩れる。

　――その瞬間、三人の顔は餃子を挟んで、息の触れるくらいの場所に。
　食欲の権化。危険もあえて引き受ける覚悟の三夜。ちゅーくらいでは彼女は怯まなかった。
　パーソナルスペースが異様に狭い陽毬、距離感がつかみにくかった。
　高級水餃子は、そのときするりと三人の唇を抜けて、彼方へ消えた。
　あっけにとられる志田、その前に二人の唇が……。
（くっさ！）
　予想以上のモルでボルでグレートな臭い息だった。
　至近距離で浴びせられた呼気に、躰が怯んだ。
　抜群の身体能力。それが彼に、空中での大回転を可能にした。
　
　それと同時、女子二人も、志田の全身から漂うニンニク臭に悶絶。
　さっきまで餃子を焼いていたからなのか。
　
　辛くも逃れた死のベーゼ。だが、顔面から落下した三人、地面とちゅーを交わす。

　まさに漁夫の利で超高級餃子を食した刀。

（……）
　しかし、刀は心中で焦りを感じる。
　この戦いに勝利するため取ったリスク。
　それが、この先響くことを、なにより彼自身が知っている。

「がうううう！！」
　まるで狼の雄たけびの如き、凄絶な声が上がった。
　大型餃子を食べ終えたロシィが、うっかり瓢の熱々餃子を口にしてしまったのだ。
　辛いもの、熱いものが苦手なロシィ、涙を滂沱と流し、うめき声を上げる。
　父親や、優芽たちが慌てて駆け寄っても、彼女は餃子を離しはしない。
　見上げた狼の魂だった。