餃子の闘将｜リアクション

餃子の闘将

「ホウレン草やニンジンで色を付けた、カラフル餃子も……」
　露草のアイデアに触発されたか、綾花も変わり餃子にチャレンジ。
　女の子らしい、かわいらしく繊細な感覚で餃子を作る。
「バトル用に……参加している人にも、見た目で楽しんでもらえたらって」
　そういいつつ綾花は、掌の上の餃子を見て、はっとする。
「それも焼くの？」
「これは……私がお持ち帰りで」
　慌ててプラスチックの容器に入れる綾花。怪訝そうな顔をする一同。
　言えない。
　皮をつまんで猫耳風にしたら、思いのほか可愛くできちゃったなんて。
　そのあとも猫耳餃子を作りつつ、会心の出来の餃子はしっかりしまっておく。

　変わり餃子をもくもくと食べる、御剣刀、三夜朝陽、旅鴉月詠ら。
　穏やかな時間が流れる。

「って、なんで月詠くんが！？」

　白銀の髪を後ろに束ね、三角巾よろしくバンダナ。そしてエプロン。
　後ろに流れる髪が清々とし、清潔感抜群。
　完璧なコスチューム。
　
　問うより早く、さっとタッパーを取り出す。
　中にはぎっしり、唐揚げようなものが光沢を放っている。
「唐揚げ？　いいえ揚げ餃子です。
　 ……餃子の皮だから餃子には違いない」
　自信満々に言う月詠。
　首をかしげつつ、一同は摘まむ。味付けされた鶏ももに、餃子の皮をかぶせてあげたもの。
　香味野菜やレモン汁をかけてもおいしい。

　餃子ばかりで若干飽きの来ている一同には、スパイシーな変化となり、いくらでも進む。
　唐揚げを愛する三夜も、歓喜の声を上げて口に放り込んでいく。
　だが、揚げ餃子かと言われると――。

「何でいるの！？　と聞かれたら、答えてあげるが世の情け」目を眇めて笑う。
「単純に暇だったからさ」

　そういって、月詠は調理を始める。
　鍋にもやしと青梗菜。もやしを見た陽毬は歓声を上げる。
　調味料を鶏がらスープに抛り、手早く味付け。
　冷蔵庫の奥から取り出したのは、じっくり寝かせた生地。
　打ち粉をして、じっくり体重をかけ伸ばし、生地を切って円形に。
　厚手の皮に、鶏ひき肉、叩いたむき海老、シイタケを入れ、ていねいに混ぜる。
　生姜が爽やかに薫る。
　しっかりと皮で閉じ、鍋に投入。

　猫島軒のものとは一味違う、凝りに凝った手作り餃子の逸品が完成した。
　手間のかかる餃子。先ほどの揚げ餃子は、このつなぎ。
　一口食べれば、鳥の汁が溢れ、香気が立ち上る。
　濃い目の味付けを、厚手の皮がしっかり押さえる。
「皮から手作りした水餃子だ。――お椀に入れてどうぞ」

　
　野趣あふれる本格餃子に、一同は舌鼓を打つ。
　やはり、皮から手作りした餃子は違う。

　――皮から、手作り。

　秋の午後の陽射しが眩しい。
　沈黙が降りた。
　充足感に満ちた顔で、月詠が言う。

「なぜ皮を作るのか？　と言えば、
　皆、大量発注の皮を使おうとする。
　つまり、レシピは違えど皮は同じということだ」
　強力粉と薄力粉を取り出す。
「皮から変えてしまえば、オリジナリティがさらにでるということだ」

　手を掛けた餃子を作りながら、皮の消費には一切かかわらない。
　世界の法則には手出し無用。それが魔女の矜持かもしれない。
　突っ込める空気ではなかった。