餃子の闘将｜リアクション

餃子の闘将

　そこへ屋台を引いてくるのは、美貌の青年、深縹露草。
　女のように長い黒髪、神秘的な青の瞳。
　ミステリアスな風貌に、思わず身構える。
　一同を見渡し、彼はおもむろに皿を取り出した。

「……」
　乗っているのは、ちまちまと作られたミニ餃子。

「かわいい！」思わず綾花が声を弾ませる。
「臭いのもとになる材料は入っていまセーン！」
そう言って、露草は憂愁に貌を曇らせる。「本当は、ニンニクやニラを使った餃子も好きなんですけど……」
　この期に及んで、まだにおいなどを気にしている。
　デリケートを通り越して、天然ボケが少し入っているようだ。
「しかし、次の日のバイトに、臭いが原因で悪影響がでることを考えると……ッ！！」痛恨の露草。
「皮を半分にしたんですか？」
　タッパーに入れられた餡は、細かく微塵に切られたキャベツ、食感を殺さないようにされた海老。
「油を使わないようにシマース」
　柔らかく蒸し上げられた餃子は、まるで芸術品のようだ。

　勇んで取る一同に、深草は緑茶とウーロン茶を販売する。
「焼き餃子は、油を使うものもありますから、烏龍茶と一緒にいただくのがおすすめですよ」
　ふふ、と涼やに笑う。
　もやしの触感に浜松餃子を思い出し、陽毬は笑顔を浮かべる。
「いろんな地方の、いろんな餃子があるみたいデース」露草が言う。
　
　一同に餃子を振舞いつつ、露草はあたりを伺う。
「他の方々の餃子も気にナリマース……」
『準備中』の札を出して、一緒に猫島軒で餃子を味わう露草。
　ニンニク入りとなしをチョイスできるのがうれしい。
　商売敵など、いちいちこだわる者はいない。何しろ餃子の皮が山のようなのだ。

　餃子フェアと聞いて、彼が考えたのは「流れに乗れということか！」
　不敵な策士のような外見とは裏腹の、気の良い餃子好きお兄さんだった。