ボール……にゃ！？｜リアクション

ボール……にゃ！？

●術符の効き目は……？

　球技大会も目前ということで、夏神零はテニスコートで練習をしていた。　
　男女両方の制服を持っている男の娘の零だが、今日のテニスウェアは男子用だ。
　渾身のサーブを決めた零は、体の異変に気付いた。
　頭とお尻が以前より重い気がする。
「な……にゃにが起こっておる……って尻尾じゃと！？」
　視界に入ったのは、長い純白の尻尾。
　頭に触れれば、明らかに猫耳。
「ふむ……猫の魂でも憑依した感覚でござるにゃ……ま、耳が生えたくらいは問題にゃい」
　同じ現象に見舞われた周囲の騒ぎを気にせず、猫耳をピコピコさせながら零は冷静に考える。
　猫の運動能力を分析し体で覚え動きを活かす、という考えが閃いたのだ。
（猫のしなやかさ、瞬発力……コツを覚えて球技のみに限らず全ての運動に活用できそうじゃな）
　テニスをする上で瞬発力と動体視力、聴覚も向上しているだろうから、上手いこと体で感覚を覚えてみるか。　
「猫の体でコツをつかめば、人間に戻ってからも確かに生かせるかもしれぬな」
　対戦相手も、零の様子を見て試合続行を決めたようだ。
　しかししばらくすると、ボールを持った相手が、それを取り落したまま猫化してしまった。
「対戦相手が猫ににゃってしまっては練習試合は不可能か」
　零の美しい真紅の瞳も猫目のように変わっている。
　口調も時折変なことになる。
　そして足が……
「耳、尾、瞳、猫足……次は手か……流石に手はまずいか」
　完全に猫化するとラケットとボールが持てなくなる。
（ボールの扱い方を工夫するか……）

「ここもみゃ……」
　博美と天野がテニスコートを覗き込み、何やらメモしている。
　一番冷静さを保っていると見受けられた零に博美が声をかけた。
「君、いつから猫化したみゃ？　何か気づいたことはないかみゃ？」
　聞かれてそちらを見た零が天野に気づく。
「そなた、確かクラスメイトの……」
「逆巻だ。猫化の原因を調べるためボールを回収してる」
「そうか。猫化は……球技大会の練習を始めて間もなくでござるにゃ。そういえば……」
　零は記憶を辿る。
「さっき大きな三毛猫がコートに迷い込んでテニスボールに触れていたにゃ」
「大きな三毛猫……そういえば、さっき見かけたな！」

　天野と博美が礼を言い去った後。
　零は、日頃から持ち歩いているお札や術符を取り出した。　
　神社の神主として霊術を仕込まれている身だ。
「霊術で元の身体とまでいかぬが猫化の一段階でも、解呪で猫化の進行を調節できれば幸いにゃがの。
非常に興味深い現象にゃな」
　ぺたり。
　猫になった足にお札を貼ってみたが、特に変化はないようだ。
　零はあきらめずに対戦相手や変化した猫たちに術符を貼っていく。
「しかし札が幾つあっても足りぬにゃ。これだけ猫が多いと……」

　そのとき一陣の風が吹いて、貼ろうとした術符が吹き飛ばされていった。
　ひらり、コートを越え体育館倉庫のほうへと。

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