ボール……にゃ！？｜リアクション

ボール……にゃ！？

●猫耳にゃ！

　六限終了の鐘が鳴って間もなく。
　ソフトボールの打順待ちをしていた奈良橋博美の視界を、体育館のほうから走ってきた大きな三毛猫がかすめた。
　寝子高では別に珍しくない光景だ。
　授業が終わって先生が去った後、先ほどまで何の気なしに触っていたソフトボールの片付けを始めたが、周囲で上がった叫び声に驚き、ふと違和感に気づく。
「猫……耳みゃ？」
　そう、周囲の生徒の頭に。
　そして、自分の頭にも不思議な感覚が……
「大変みゃ……」
　事態を把握した博美は、メモ帳と鉛筆を取り出し、状況をまとめ始めた。

　伊賀解理は、グラウンドに転がっていたサッカーボールを拾いあげた。
　掴んだとたん、にょき、と頭に違和感を感じる。
　頭に手をやれば、触れたのは柔らかく温かいとんがったもの。
　ガラスに姿を映してみると、黒い大きな猫耳が生えていた。
　１４３ｃｍの小柄な体に猫耳は、実に愛らしい。
「いきなりの猫化……これは間違いなくろっこんによるもの！」
　今までのさまざまな事件を考え合わせると、そうとしか思えない。
　しかしまた変な能力だなぁ……ともあれ使い手を探さなくては！　
　とはいえ、猫耳生やしたこんな姿を誰かに見られたら恥ずかしくて死んでしまう。
（ただでさえ不名誉な伝説も作られてるのにこれ以上増やされてはかなわん！）
　そこで解理は考えた。
　茂みとか身を隠せそうな場所を利用して移動しよう。
「ふふふ、単純ながら有効な手段だ」
　背を丸め人目を忍ぶその様子は、本人の意図とは裏腹にさらに猫っぽさを増していたが。

　解理が置き去りにしたサッカーボールに、後から来た高梨彩葉が気づいた。
「ん？　何でサッカーボールがこんな所に転がってるの？
ちゃんと片付けなきゃ駄目じゃーん…… 」
　サッカーボールに触れたとたん、頭に違和感が。
「……ってなにこれ！？　ネコミミ生えてる！？」
　ボールを離し頭のネコミミに触れた彩葉は、周りを見渡す。
「え！？　何コレ、他の人たちにも生えてるじゃん！
これもしかしてろっこんの影響？　しかもなんか猫多くない！？」
　いつの間にやら、グラウンドにいる人たちのほとんどに猫耳や尻尾が生えている。
　そして校庭には妙に猫が増えていた……さっきまでいたはずの人たちが減っている。
　彩葉の目の前で、グラブをはめた猫耳猫尻尾の少女が消え、同じ色の猫が現れた……
「と、とにかく猫になった人たち助けないと！　ああでもどれが元人なのか全然わかんないよー！」

　
　虎渡からんは、下校を始めていた。
「今日は「しののゐ」さんにお肉を買いにいくんだ！　帰ったらカレーになるんだよー！」
「………って、あれ～？」
　なんだか校庭に猫さんいっぱいいっぱいいる？
　からんは嬉しそうに猫たちを見まわす。
「なんかあげたいな、お弁当の残り……残ってるの骨ぐらいしか……あ！　骨！」
　からんは骨をくわえ。
　ろっこん【とらとラ！】を発動させる。
　脱ぎ捨てられた服と共に、からんが変身した可愛らしい子虎が姿を現した。
　見ていた彩葉は目を丸くする。
「自分の意志、で変身してる……？」
「あにゃにゃー！　うにゃん！！」　(猫さん猫さんあそぼー！！)
　からんは楽しそうに猫たちに声をかける。
　ほら、こんなことができるんだよ、というように飛びはねて見せたり。
　戸惑っていた猫たちも、楽しそうなからんを見て興味を惹かれたようだ。
（こっちにおいでよ！　すごくいい景色が見える場所があるよ！）
　からんは猫を引き連れ、お気に入りの場所へ向かっていった。

「猫もけっこう、楽しそうかも……」
　彩葉は、からんたちを見送りながらちょっとだけ思うのだった。
　ふと、周囲から聞こえるパシャッという音に気付く。
「ちょ、そこ！　写メをとるなぁぁ！！」
　不届きな盗撮者を追っ払った後、ちょっと考えて。
　彩葉は自分の携帯を取り出した。
「記念に、なるかな……？」
　知り合いに、見せたいような。
　恥ずかしいような。

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