かってに応援ちゃんねる！｜リアクション

かってに応援ちゃんねる！

　カメラが映し出すのは、メイド服に身を包んだ、成熟した肢体の美女。

「変装メイド喫茶『ｂｏｎｈｅｕｒ』から来ました～」

『秋のハロウィンフェア』と書かれた、彩豊かなフリップを構える。
　飾りのないメイド服、これが今後、思い思いにデコレートされていく。

「ちょ、ちょっと！　お姉さん！」笑いながらゴールドが飛び出す。「お店の宣伝、しちゃダメだよ～！」
「あら、コレって地元宣伝番組じゃないの？」
「違う違う！　選挙の応援してくれなきゃ！」
「何なに？　選挙活動？　そっか……」瞬時、遠い目をする美女。「もう、そんな時期になったのね、寝子高も……」
「あれ、お姉さん、寝子高関係者？　だったらお店の宣伝もＯＫ！」
「ダメですよ」すっと突っ込む黒子。

　その目が、すっと窄まる。

　いいなの、大胆不敵な策略だった。
　とある事情から、この島にいることは知られたくない。
　タレント風情に、手がかりをつかまれるのは避けたい。
　ましてこの男のノリは、虫唾が走る。

　けれども、応援したい相手はいる。
　どうせしくじるに決まっている叔父貴（実際しくじった）の様子も気になる。

　フツウを守り、自分を守り、それでもあきらめない。
　智と胆力を駆使して、最後まで追い求める。

「ええまあ、わたしは卒業生……ってところかしら」照れて笑ういいな。邪気のないその笑顔に、隙は見えない。
「あ、そうだ！」手を打つ。「常連さんから、応援の機会があったら言ってほしいことがあるって言われたんだ……」

　巻物状の紙を、ひらりと宙に舞わせる。

「ええと、これかな？

『副会長立候補者の、女性の敵、チャラ男、ボケ、キモの八十……』

「ストーップ！」さすがにゴールドが割って入る。「それ、応援してないって！」
「『キモき一票を』って……文字間違ってるじゃない、この手紙」ぽいっと抛るいいな。
　それを目で追う黒子。
　どこまで計算で、どこまで真実か。窺うことはできない。
　なんだか妙に、読み方が迫真に満ちていたが。

「あった、この手紙だわ。

　――書記候補、八重崎五郎八さんを宣伝します。
　彼女は小規模の部活動ではありますが『歌留多同好会』を主催しており、百人一首の楽しさを
　伝えようと日々練習等に励んでおります」

　選挙演説の際、軽やかに百人一首を読み上げた姿は、生徒たちに強い印象を残した。
　その文面は、聴く人にその時の感動をまざまざと甦らせた。

「その実直な姿勢は、他の生徒にとって良き手本となる事でしょう。
　八重崎五郎八さんに、是非、一票を投じて下さい。
　よろしくお願いします――
　
　……だって。よかったら投票してね。おねーさんからの約束よ♪」

　軽やかな笑みの裏側にある、深い思い。
　それを隠し、彼女は笑う。

「はーいありがとう！　お姉さん、なんだかんだ収拾ついて、よかったよ！」

　ニコニコ笑いながら壇上から降りる彼女の視線が、一瞬望月に刺さったのを気づいた者はいたか。
　
　明敏な黒子、一抹の疑念を感じないでもなかった。
　だが、少なくとも思いは純粋で、まじりけのないものだった。
　それならそれでよし。忘れることに努めよう。