かってに応援ちゃんねる！｜リアクション

かってに応援ちゃんねる！

「……というわけで、スタジオでは実際に応援の方をやってもらおうと思う！」
　旧市街に設営された急ごしらえのセットで、ゴールドが司会進行をしていた。
　その裏手で、緊張に震えるのは宇佐見望月。

（武道ちゃんを宣伝するんだ！）
　彼は、敬愛する友人のことを応援するつもりでいた。
（彼の、いいところをしっかり……）
　
　だが、前向きなのにシャイなところのある望月。
　収録を前に緊張しまくっていた。

（いーなに書いてもらった原稿もあるし、な！）
　震える手で取り出すのは、姪っ子直筆のアンチョコ。

　その作者であり、姪っ子は、実はこの場にいた。
（がんばるのじゃぞ、叔父貴……）

　大田原いいな。だが外見から、彼女をそれと気づくものはいない。
　ろっこん『ＴＲＡＮＳＭＵＴＥ』の力により、彼女は２０歳前後の女性に変身していた。
　びしっとメイド服に着替えれば、少女の面影はない。

　その時、ゴールドの声が響き渡った。
「それでは望月！　張り切って頼むよ！」

「え、あ、お…おいっす！　お、俺様宇佐見望月っていーます！」声が緊張でかすれた。「今から、生徒会長に立候補している、志波武道ちゃんの応援演説をしたいと思います！」

　いい感じである。
　これなら、アンチョコに頼らなくても、いけるかもしれない！

「志波武道！　俺様と同じ２年１０組所属……えっと」　
　まずはプロフィールから。
「水泳部ではストイックな練習振りと、みんなの気をゆるめる話し方で人気がありまっす！　それから……」
　それからあのことだ。あれについては、触れておかなければならない。
「体育祭！　ついこないだあった！」
「オオ！　俺も見させてもらったよ！」ゴールドが合いの手を入れる。
「そこで切り盛りして、成功に導いたっていう実績もある！
　みんなの気持ちをまとめるのには、向いてるんじゃねーのかな？」
　頷くゴールドと黒子。
「困っている人、イベントとかに一肌脱げるいいやつだと思うぜ！」

　よし、うまくいっている！
　俺様の応援に、みんな聞き入っている！
　で……。

　そこで望月、空白になった。

「あ、あれ？」こんな時こそ用意しておいたアンチョコ。だが、ポケットをあさっても見当たらない。
（どこ行った、俺のアンチョコ）
「どうした、頑張れ望月！」ゴールドが声をかける。

　ええと、そうだ。一肌脱ぐってところまで……。

「あ、はい。一肌脱げるいいやつです。はい」
　それからなんだ。言うべきこと。
「人前で何枚でも脱げるし、いつでも脱いでるし、水泳で鍛えた体を見せつけるようにも脱ぎます」
　それから、言うべきこと。
「それから『神速の脱衣王』っていう二つ名もあるんです。武道ちゃん。
　……あ、あれ？　これって、応援になってるのかな？」
　目が泳いで、全身から汗が吹き出る。

　舞台裏では、頭を抱えるいいな。
「何を馬鹿な事を言うておるのじゃ、ボケ叔父貴～！！」

「……望月、脱衣の話はしてないぜ」ゴールドが突っ込みを入れる。
「ぬ、脱ぐ？」望月は完全にパニック。「ああいや、俺は脱ぎません！」
「なんで脱ぐ脱がないの話になってるの！」
「友人のために手は貸すけど、俺自身は、脱衣しません！」
　慌てて胸元を隠し、赤らめた顔を振る望月。

「あのなあ、そういうのは」ゴールドが壇上に立つ。「『脱衣させるなよ！　絶対！』っていう前ふりになっちゃうんだよ、テレビ的には！」
「脱ぎませんってば！」
「ああもう、観念しろ！」

「はーいそれでは、次いきますー！」
　素早くステージに飛び出すいいな。
　その顔が若干引きつっていたのは、言うまでもない。