かってに応援ちゃんねる！｜リアクション

かってに応援ちゃんねる！

「なかなかのナイスコメントだったな。クロのおかげだぜ」満足げにうなずくゴールド千駄ヶ谷。
　さらさらとノートを書き込み、アシスタントはうなずく。
　黒檀の肌に、光沢をもつ白の髪が印象的な美女、吉祥寺黒子である。

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「おっ！　誰かと思ったら……千駄ヶ谷センパイじゃないっスか！」
　一時間ほど前、放送の準備をしている傍らを通った黒子は、知った顔を認めた。
「お……」振り返って応じようとしたゴールド、若干ためらう、「おう、久しぶり！」
「クロですよ！」明らかに自分のことをわかっていない風情の千駄ヶ谷に、黒子は笑う。
　おぼつかなかった千駄ヶ谷の瞳が、その一言で焦点を合わせる。「クロ……クロかよ！　びっくりしたな！」
「……まあ、ナリが変わってまったから、わからないのは仕方ないっスね」

　今を去ること４年前、東京でチャンスをうかがいながら、アマチュアバンド活動をしていたゴールド。
　ふとしたきっかけで知り合った黒子。ゴールドはまるで年の離れた妹のように「クロ、クロ」とかわいがっていた。
　黒子の芸術センスに反応したゴールドは、対等な音楽仲間として交流をしていたのだ。

「あのクロか……しかしまあ、よくお育ちになって……」まじまじと黒子を見るゴールド。
　彼の記憶にあるのは、黒髪を長く伸ばした清楚なお嬢様だった。

　あどけなく笑う少女は、しかし父の言葉であるという「芸術は狂気」という格言を大事にしていることや、
「大事な人達が幸せであるか」という信条を披露し、内面の鋭さ、強さを見せつけた。
　あれから数年。外見に関しては、浅黒い肌を残し、ほとんど昔の残滓はない。
　もとからあった性向が、いよいよ表に出始めたというところか。

「こっちの方も……」言いつつ、ゴールドは黒子の胸元に目を遣ろうとし、慌ててそむける。
　あまりにも豊かなそれは、下ネタキャラを持つ彼にして、目をそらさせるものだった。
　苦笑交じりに、黒子が笑う。

「いや、でも俺はクロだって一発でわかったよ」
「『誰だ』って顔してたじゃないですか」
　お約束のジョークに、突っ込む黒子。二人は笑う。
　それから少し、ゴールドは神妙な顔になって、
「まあ、クロなりにいろいろあったのかもしれないけど、何も変わってないよ」
　といった。
　尖った成りに隠れているが、黒子の内面は乙女のまま、なにも変わっていたない。
　昔からの付き合いのある者からすれば、一目瞭然なのかもしれなかった。

「クロ……昔を思い出すぜ」遠い目をするゴールド。
「まだ、バンドとかやってるんですか？」
「最近はご無沙汰だな……」

　ゴールドがリーダーとなり、寝子島で活動していたラテン系スカバンド。
　身辺が忙しくなり、最近は活動していなかった。
「なあクロ、やっぱり俺の故郷は、南米のスカにあると思うんだよね」
「今度、組みません？」言いながら黒子は、金管楽器を操作する手振りをして見せる。
「そうだな……」あいまいに答えるゴールド。
　秋の陽が不意に翳って、路上に黒い影を落とした。

　何をしている……と尋ねようとして、黒子はセットの文字に気付く。
「選挙の応援チャンネルですか？」
「おう、クロ、インタビューとかやってくれよ」
「俺は特定の支持者は居ないから……質問に答えるとかできないっすけど」黒子はそういって、周りを見渡す。
　スタッフの人手は足りてなさそうだ。手元のおぼつかないタイムキーパーがいるだけだ。
「良ければ手伝いますか？」
「願ってもない！」ゴールドは笑う。機材の扱いや、勘の良さは知り抜いている。最高の戦力だ。

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「それじゃ次は、スタジオで応援っすね。もう出番の方、スタンバイしてますよ」
「そうか！　クロ、急ぐぞ！」特設会場に向けて、一同は走り出す。