かってに応援ちゃんねる！｜リアクション

かってに応援ちゃんねる！

「もしもし、そこのお嬢さん！」

　呼び止められて、フィーナ・シレンツィオは振り向いた。
　端正な美貌に「ネコネコ動画」のカメラが向けられる。
　若干軽薄そうな、マイクを持った男がたじろぐのが分かった。

「これは……レディですな。失礼。私、テレビタレントをしております、ゴールド千駄ヶ谷と申します」
　先ほどと打って変った慇懃な口調。
　フィーナは白銀の長髪を揺らして、小首を傾げる。
　その瞳には猜疑の光。女だてらに、怪しいやつなら容赦せぬという誇り高さが窺える。

「今、訳あって『勝手に応援ちゃんねる！」という、寝子高生徒会選挙の応援の番組をしてるんだ。
　留学生かな？　あなたおとなしそうだから、何かと大変だと思うけど、ちょっと選挙について聞いてもいいかな？」

「モチよ」フィーナは言って、アシスタントからフリップを受け取る。

（……今、何て？）

　司会の男は、硬直した。
　目の前で、仔細に候補者名簿を見る少女は、どこから見ても優雅なレディだ。
　良家のご令嬢であることは疑いはない。
　英国の伝統、気品を受け継いだ淑女。
　神秘的なオッドアイに、しっとりした落ち着きを感じさせる服装。
　
「あ、あの……」
「大丈夫」コホンと咳をするフィーナ。喉で天使がラッパを奏でたような音だ。「学校帰りに、いきなり声かけられてインタビューとか……」
「ご、ごめんな」
「いやまあ、答えるのが嫌ってわけじゃねぇけど……」優雅に眉をひそめる。「いきなりでまともに答えられるかっつーの」
「ごめん」
　すうー、はあーとフィーナは深呼吸する。

「よっし、もう大丈夫だ！　なんでもきやがれっ！」

　フィーナ・シレンツィオ。実際名家の出であるし、気品や優雅さも本物だが、ただ口調の伝法さだけは直しがたい。
　強気で廉直、常にやわらかな繊細さを忘れぬ彼女に、その言葉遣いはよくあっていたのだが、いかんせんギャップが凄すぎる。

　ゴールド千駄ヶ谷、売れないテレビタレントとして活躍する傍ら、母校である寝子高をこよなく愛する彼。
　選挙をよりオープンにし、多くの人に参加してもらうため、動画サイトでの応援の特番を買って出た。
（まあ、ありのままの寝子高の姿を映すのが、一番いいと思ったのだが……）

　のっけから、強いインパクトの持ち主に当たった。

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