【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～寝子高バザール！｜リアクション

【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～寝子高バザール！

●例えばこんな素敵な夫婦

「夏朝ちゃんの猫喫茶、どこかしらね～」
　少女のような面差しの恵御納理沙と、渋いスーツ姿の恵御納久隆は、恵御納夏朝の両親である。娘からバザーのことを聞き、わざわざ茨城から見に来たのだ。
　並んで歩く姿はボディガードと深窓の令嬢にも見えるだろうか。
　しかしひとたび仲良く腕を組んでしまえばそこにいるのは紛うことなきおしどり夫婦である。
「見て旦那様、あれすごく可愛い～！」
「確かに……可愛いな」
　愛する妻とこうやって腕を組んで歩くのは嬉しくもあるが照れくさくもある。だが、そんな照れくささは妻の喜ぶ顔の前では些事に過ぎない。

　シーウェーブに立ち寄ると、日本文化に目がない理沙は途端に瞳を輝かせた。
「まあ、旦那様見て。和菓子のマグネットですって。もみじ饅頭、三色団子、おはぎ……どれも可愛くて迷うの……」
「３つセットで３００円ですよぅ、お嬢さん」
　糸目の男の子の言葉を聞くと、理沙はきらきらっと表情を輝かせて旦那様を見上げた。お嬢さんと呼ばれたわ、というのと、お買い得だわ、というのをそのきらきらにいっぱい込めて。
「旦那様、私これ買うわ！　ふわふわしていて可愛いの……！」
　久隆はうむ、と頷く。
（私が買ってプレゼントしようか）
　しかしそう考える間に、理沙はお会計を済ませてしまっていた。

　ふだんはおっとりの妻だが、可愛いものを前にしたときの決断力は自分より優れているらしい。
　迷いは禁物だ。
　そう学んだ久隆は、次に立ち寄った秋津屋では、学習の成果を発揮してみせた。

「とんぼ玉の根付も可愛いし、他の品物も素敵……！」
「……これが気に入ったのか」
　久隆は理沙が手に取ったトンボ玉を今度は迷わず包んでもらう。
「旦那様、買うのね！　きっとスマホに似合……」
「君にプレゼントだ」
「……え、私に？　プレゼント？」
　驚く妻に、素直な気持ちを短く告げる。
「理沙がつけたら、似合うと思って……な」
「嬉しい……ありがとう、旦那様～！」
　理沙は人目もはばからず久隆の首に腕を巻きつける。
「り、理沙……抱きつきは嬉しいが、後に……」
　切りそろえられた黒髪の少女が、頬を染めながら憧れ混じりの眼差しで自分たちを見守っている。
　ふわりと揺れた金の髪から嗅ぎ慣れたいい香りがした。自分はこの女性が本当に好きだ、と思わせてくれる香りだった。

◇

　万事が万事この調子だったので、猫喫茶までの道のりは、久隆にとってとても幸福で、些か心臓に悪い旅路となった。妻がようやく娘のいる猫喫茶を見つけた時は、ほっと安堵したものだ。
「夏朝ちゃん、メイド服姿も可愛い～！」
　理沙がはしゃぐとおり、娘の姿はとても素晴らしいものだった。どちらかというと童顔でいつまでも守ってやらなければいけない幼子のように思っていたが、いつのまにか高校生なのだ。メイド服を着て店番をする夏朝は、予想以上にしっかりしているように見えた。
「……素敵な店だな。猫も可愛い」
「ありがとう。お父さんもお母さんもゆっくりしていってね」
　愛娘の姿を見て、猫たちと戯れて、理沙もとても幸せそうだ。
「……来てよかったな」
　久隆は理沙にそう声を掛けた。
「そうね。ええ、もちろんそうよ。幸せってこういうことよね、旦那様」
　こつり、と胸元に頭を寄せる妻の肩をそっと抱く。
　そうだ、幸せというのはこういうことだ、と噛み締めながら。