夢の晩餐｜リアクション

夢の晩餐

　次に箸を採ったのは、翠響。
　納豆を差し出す時尾に笑顔を向けて、翠響は申し出を辞する。

　何をかけても、自分の場合無駄。
　食べた感触も、よみがえる記憶も、押さえつけることはできない。

　何度も箸を手にとっては、戻す。
「ううっ……食べりゃいいんでしょ……食べりゃ……」

　彼女は、いわゆる『優等生』だ。
　なんでもそこそこ、上の中でうまくこなす。
　マイペース。努力は好きじゃない。
　もしもキライなものがならんだら、そっとわからないように捨てればいい。

　グリーンピース、牡蠣。セロリ。それらは彼女の『過去』と結びついている。
　牡蠣は生食があたって、数日ひどい腹痛に悩まされた。

　セロリはサラダの中にあった。
　除けてしまったところ、母親から強い叱責を受けた。
　刺すような言い方に「わが道を行く」彼女、強い反発を覚えた。

　グリーンピースは、給食に出されたホワイトシチューのそれが食べられず、教師にいのこりをさせられた。

　埃が積もって行く、白い石膏のようなホワイトシチュー。
　石灰のような人参に、ひび割れてへばりついた玉葱。
　それらの生臭い臭いに、いくつものグリーンピースが見えている。

　教師ににらまれながら、口に運ぶこともかなわず、硬い椅子に座り続ける。
　要領のよいはずの彼女にとって、それは屈辱の時間だった。

　この機会がなければ、きっと生涯これらの食材を口にすることはなかっただろう。
　しかし、ことここに至って、腹が決まった。
　ほかのみんなも根性を見せて食べてくれた。逃げるわけにはいかない。

「うわあああっ！」
　皿を手に取り、掻きこむ。
　涙があふれる。が、彼女は止まらない。
　盛大に涙なきながらヤケになって咀嚼し、ついに彼女は食べきった。

　最後に皿に残ったグリーンピースをつまみ上げ、奥歯で磨り潰す。
　たぶんこの感触と油の香りは、記憶に残る。

　それはトラウマだろうか。
　それとも、彼女にとって珍しい「苦手なものを克服した記憶」になるのだろうか。
　
　翠響の「自分は自分」という矜持が、無理やりに苦手なものを食べさせたのだ。

　ほぼ同時に、秀麗な顔をゆがめつつ、理沙も食事を終えた。