アイドル・ヘルプコール｜リアクション

アイドル・ヘルプコール

　chapter.3　手強いenemy！　

　シーサイドタウンでのキャンペーン活動に光が見え始めていた頃、星ヶ丘では。
「ここなんか、いかにもそれっぽくていいですね」
　言って、カメラを回しているのは檜扇舞華だ。いま自分がいる位置からの星ヶ丘の町並を撮影すると、止めていた足を再び動かす。
　少し歩くと、また舞華は同じように立ち止まってカメラを構えた。レンズの先には、数匹の猫。
　その様子はさながら、初めて寝子島を訪れた観光客のようだった。もちろん、彼女はそうではない。どころか、星ヶ丘で立派に働いているメイドである。
「あら、猫が集まってますね。これは盛り上がりそうな画です」
　レンズを向けた先では、いつの間にか猫がわらわらと集まっていた。彼女のその口ぶりからすると、今撮影しているものを後々何かしらに使用するつもりなのだろうか。
「そうそう、ああいったものも撮っておかないといけませんね」
　と、舞華は何かを思い出したようにカメラの向きを変えた。
　舞華のカメラが捉えたもの、それは星ヶ丘の駅前でマナー向上のビラを配る久良木優菜と佐々良縁の姿だった。

「いま、マナー向上イベントやってます。皆さん、ご協力お願いします」

「よ……よかったらご覧になってくださいっ」
　ハキハキとした優菜と、控えめな雰囲気の縁。
　対照的ではあったものの、ふたりとも真面目に、懸命に活動しているのが見て取れた。
　縁の方は、人に声をかけることが元々あまり得意ではないのか、時折ビラを渡そうとして渡せずじまいなんてケースが見られる。が、それでもめげずに頑張っている。
　一方の優菜は以前もビラ配りをした経験があるのか、慣れた様子で、笑顔で配っている。たまに威圧感のある通行人などが通る時は少し遠慮がちになる場面もあったが、それでも人を選ばないよう、きちんと声をかけに行っていた。

　と、ふたりがビラを配っているところに、なにやら強烈なにおいを発する集団が通りかかった。
　どぎつい香水の香り、遠くからでも聞こえる、決して品が良いとは言えない笑い声。
　優菜と縁が反射的にそちらを向くと、そこにはトラの毛皮を全身にまとった4人の女性がいた。年は50過ぎくらいだろうか。
　なんとも派手な装いのマダムスたちにふたりとも一瞬気後れしたものの、ここを通るのであれば声をかけないわけにもいかない。
　ましてや、マダムスたちは平気で道を塞ぎ、横一列で歩いていた。マナー向上を呼びかけておきながら、これを見過ごすなんて言語道断である。
「あの……歩行者のマナー向上キャンペーンをやっています」
「よろしければ、どうぞ！」
　縁と優菜が、マダムスの両サイドから声をかける。しかしマダムスたちは気がついていないのか、それとも気がついていてあえてなのか、何の反応も示さず大声で笑いながらふたりの前を通り過ぎた。
「……ほうほう、こんな感じなのですね」
　それを少し離れたところから撮影していた舞華は、小さく呟いた。
「これでも充分素材は揃った気はしますが、せっかくなのでもう少し様子を見てみましょう」
　誰に言うでもなく放たれたその言葉は宙に消える。見つめた先では、遠慮無く騒ぎ立てるマダムスたちをふたりの少女が何とも言えない表情で見つめていた。

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