幕の内の内の内｜リアクション

幕の内の内の内

「じゃ、取りかかろうか……」満月が中華鍋を手にする。
　一同の視線が集中する。満月の店には、一再ならず訪れている彼らだ。彼女が何を作るのか、気になる。
　まずは玉葱を取り出すと、驚くべき速度でみじんに切る。
　真珠色の実が、瞬く間に透明な砕片に砕かれる。
　中華鍋が火にかけられ、充分熱くなったところで油を投入。頃合いを見計らって、先ほどのみじんの玉ねぎとライスが投げ込まれる。間髪入れずケチャップが注ぎ込まれ、盛大なジュウッという音とともに、良い臭いがあたりにたちこめる。
　歓声が上がる。
　満月が手首を返すと、ライスが宙を踊る。瞬く間にケチャップライスがさらに盛られ、薄焼き卵がそれを覆った。
　あっという間に一品完成である。
　満月はしばし考えると、人参、ピーマンなどをみじん切り。中華鍋が再びカンカンに熱せられ、先ほどの玉葱と一緒に投入される。ライスの奔流が宙を舞い、あっという間に炒飯が出来上がる。
　ここからが妙技。ガツンと分厚い焼き豚が焦がされ、新鮮なレタスの上に、炒飯で挟むように盛られる。ジュウジュウと脂を噴く焼き豚に、炒飯が絡み合って、虹色にきらめく。青々とした葉が清々しい。
　さらにアイデアが生まれる。止まらない。
　フライパンが火にかけられ、ほうれん草の奔流が巻き起こる。バター炒め。
　洗い場もてきぱき片づけつつ、傍らでウズラ卵、人参グラッセ、ブロッコリーのおでん風串が準備される。具材のチョイスに、女性らしい繊細さが垣間見える。
　ほうれん草のバター炒めは、じゃがいもでできた容器に盛られる。
　オーブンから出てきた、ブツブツ煮立っているホワイトソースのエビグラタンは、パイシートのカップだ。
「定番は、このへんかねぇ？」満月は笑いかける。「お箸やフォークを使わないのも、こだわりさぁ♪」
　お祭りなどで手軽に食される料理に、満月は思い入れがあるのだろう。
　彼女なりのこだわり、ポリシーを感じさせる。
　
　魂が震え立つ。霊感がほとばしり出る。
　胃袋を直撃するような、満足感あふれる一品を！