幕の内の内の内｜リアクション

幕の内の内の内

　あと、残った問題は……。
「容器の問題ですね」舞華が言う。「弁当の原価のほとんどは、容器代だって言いますし」
　かといって、あまり貧相なプラスチックに盛るのも悲しい。
　コストと見た目の問題である。
「アタシの食べられる容器も、業者にかけあわないと……コスト面であれだからねえ」満月は考える。「デザインとか、誰か考えているかい？」
「エコには配慮したいな……演劇祭のイメージアップにもつながる。そうすれば助成金もでるだろう」
　ぱしぱしと電卓をたたく修。具材、人件費を抑えることで、多少容器にお金をかけても損益分岐点は超えられそうという概算が出た。
むろん彼のことだ。後でパソコンで、より緻密なシミュレーションを行うに違いないのだが……。
　
　とりあえずプロトタイプは完成。あとは委員会に試作品を見せ、審議を図ってもらう。
　思った以上の充実感だった。
　演劇祭参加予定のなかった者も、間接的に演劇祭に貢献したことになる。
　だれかのために自分の力を尽くせるというのは、なかなか得難い経験だった。

　最後まで整理整頓をして、幕の内作成は終了した。
「それでは、これから動画の配信がありますので」
　風に吹かれて歩いてきた流浪の動画投稿者、舞華。やはり風に吹かれて歩み去ってゆく。
　最後にカメラを向けられた修、かわいらしい人魚姫幕の内を片手に「人魚姫の劇もお願いします」とアピールする。
　表はすでに黄昏ていた。朱金の光が、商店街を染め上る。
　さっきまでの熱中が、波のように引いていった。
　本当のことが嘘で、嘘のことが本当になる。
　すでに、演劇の魔法の世界に、寝子島は浸されているのかもしれなかった。

「脇役に徹するのは難しい」と、誰かが言った。
　幕の内という脇役の、誰もしらない裏側でも、彼らは本分を十全に尽くした。
　この努力が、いかなる影響を及ぼすのかは誰も知らない。

（あとは……）
　あの謎団子をどうするかだ。
　お弁当にいれるのはちょっと無理だ。
　みんなで食べるのも困る。
「どうしたらいいと、思うのだ……？」
　ゼロのいた場所を振り返った真央は、言葉をうしなった。

　初めから誰もいなかったように、彼女の姿は、影も残さず蒸発していたのだった。
　

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：ぱーすぺ
ファンレターはマスターページから！

ありがとうございました！
クオリティの高いお弁当の完成です。

スピンオフという新しい試みでした。
映画公開直前とかに、告知目的みたいなもので特別ドラマなんかやってたりするのが大好きなんですね。
ワクワク感がたまらないというか。
らっかみ！　でもそうしたものが再現できないかとワガママを申しましたら、応援して下さる方がいらっしゃって、
今回のシナリオと相成りました。
たぶん、ＰＢＷ史上初の試みだと思います（笑）。

快諾していただいた墨谷幽マスター様と、新しい試みに付き合っていただいたプレイヤーの皆様に、心から感謝を申し上げます。
また、熱いアクションをいたしましょう。
本編での参加を予定なさっている方、ご活躍を期待しております！

↑ページトップに戻る