装飾譚：通学服「Wonderland」｜リアクション

装飾譚：通学服「Wonderland」

「このゲームは絵も綺麗で因氏におすすめだ」
「それ、クラスの子もやってて気になってたんですよぉ。今から始めても間に合いますかぁ？」
「むしろ、今始めるべき。今から始めるとレアなキャラが確実に貰えるのだ。
　楓子とフレンド登録すれば楓子のサーヴァントがサポートで使えるようになる。序盤は簡単にクリアできるだろう」
「わーいっ、楓子さんとフレンドっ。わくわくしますねぇ♪」
　買い物を終えた楓子と因は大きな買い物袋を持ちながら、ティアラの出入り口に向かって歩いていた。
「おや、梢氏。待ち合わせか？」
　ティアラの出入り口に屋敷野梢が立っている。茶色の長いギンガムチェックのマフラーを巻いており、ぽんぽんのついたレッグウォーマーを履いていた。
「こんにちは、楓子さん」
「因氏、こちらは私と同じクラスの……」
「知ってますよぉ！　うちの学校の生徒会副会長さんの、梢さんですぅ。こんにちはぁ♪」
「因氏と楓子は同じ学校だったのか」
「どうやら学年も一緒ですねぇ」
　わーい、と両手を上げて因が喜ぶ。
「むむ？　素敵なご縁があったようですねー？」
「ああ。先ほど入った店で意気投合してな、これからクレープでも食べに行こうかと話をしていたんだ」
「はい☆」
「いいですねえ、クレープ。行ってらっしゃーい」
　梢に手を振られ、楓子は軽く頷き、因は顔のそばでかわいく手を振り返した。

「お。ご到着ですねー」
　待ち人の壬生由貴奈の姿が見えて、梢は壁に預けていた背を起こす。由貴奈はモスグリーンのパーカーに赤いストライプの入ったマフラーを巻いていた。梢に気が付くと眠そうな顔で片手をあげる。
「やっほー、こずえちゃん。久しぶりのでーとだねぇ」
「お久しぶりですよー。壬生先輩が付いてきてくれて嬉しいですー」
「ふっふっふ、うち、あんまりオシャレとかしないからねぇ。どんなお店に連れて行ってくれるのか楽しみだよぉ」
　梢と由貴奈はゆっくりとティアラ内をウィンドウショッピングしながら目当ての店に進んだ。
「先輩、春から新生活……なんですよねー」
「だねぇ。こずえちゃんは、春から先輩になるんだねぇ」
「先輩なんて、ぴんとこないですー。先輩が卒業する実感もわかないですよー」
「そうだねぇ、来月から別々の場所でやってくなんてねぇ。……ああ、あの店かな？」
　由貴奈が指をさした先ではチェシャ猫がにやにやと笑っていた。
「予想以上に女の子女の子した世界ですね」
「こずえちゃん、こういうの苦手だよねぇ」
「きょ、興味はあるんですー！　実は童話好きなんですよ」
「へえ、それでアリスも好きなのかな」
「アリスも結構好きですよ。わけわからない部分が多くて面白いんですよね。有名なのは不思議の国の方だけど、私は鏡の国の方も好きでうんぬんかんぬん〇▽×～」
「（こずえちゃん、何か緊張してるなぁ）うんうん」
　数分間梢のウンチクが続いた。
「うんうん」
「（はっ。先輩の目が温かい）……こほん。では、お話はこれくらいにして入りましょー！　いざ！」
「討ち入りみたいだなぁ」
　梢が顔をきりっとひきしめてずんずんと奥へ進む。ひとつあくびをして由貴奈も中に入った。
　梢と由貴奈は小物のコーナーに向かい、リボンやベルト、靴下を手に取って眺める。
「この時計柄のショールあたたかそー！　せっかくだから買っちゃおうかなー」
「いいねぇ。まだまだ寒いしねぇ」
「壬生先輩は気になるもの、ありましたか？」
　ガラスケースの中をのぞきこんでいた由貴奈が顔を上げる。
「実はいつも付けてるネックレスの鎖がへたってきちゃったんだ。パーツだけ売ってもらいたいなぁ」
「鎖なら何色かあるみたいですよー。あ、そーだ。私、ケーパン（毛糸のパンツ）欲しかったんです。あっちのコーナー見てきていいですか？」
「もちろんだよぉ。うち、鎖のことお店の人に聞いてくるよぉ」
　由貴奈と別れた梢は毛糸のパンツを物色し始める。店内の客はほとんど女の子のため、のびのびとパンツを選べた。トランプ柄のパンツ。うさぎのパンツ。バラのパンツに、ティーカップのパンツ。
「ショールとケーパン両方買っちゃおうかなー。うーん、でも今３月だからあんまり使わないですかねー」
　バイトで財布は潤っている。どうしたものかと梢は頭を悩ませた。

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