装飾譚：通学服「Wonderland」｜リアクション

装飾譚：通学服「Wonderland」

【休日編】

　内側を水色に染めた女の子・千歳飴楓子が、ティアラの店とスマホを交互に見ながら歩いている。目当ての店があるようだ。楓子は色白で華奢な体を大きめのカーキのモッズコードに包んでいて、ショートパンツから形のいい足が伸びている。
「ああ、あの店か」
　スマホを顔から離す。トランプ柄の壁紙とニヤニヤ顔をした猫のロゴは遠くからでも目立っていた。楓子はスマホをコートのポケットにしまうと時計柄のカーペットを踏んで『Wonderland』の中に入った。
　天井の装飾を眺めながら歩いていると、視界の端に金色の紙が揺れ、ドンと何かにぶつかる。
「ひゃっ！」
　と、可愛らしい声がした。
「ん？　……あ、床か」
「い、いたいですぅ～。やーん、スカートの中が見えちゃいますぅっ！」
　視線を下げると天宮城因が尻もちをついていた。慌ててスカートの前を抑え、うるんだ右目を人差し指で軽くこすっている。
「すまない、よそ見をしていた」
　楓子が手を差し出すと、因がにこっと笑ってつかまった。
　因はフリルがふんだんにつかわれたワンピースを着ており、毛先がまかれた長い金髪を黒いリボンで飾っている。ハートが浮かんだピンクの瞳が宝石のように輝いていた。
「（SSR級美少女……）かわいい服だな。汚してしまっただろうか」
「かわいい……えへへ☆　大丈夫ですよぉ、カーペットで転んだからおしりも痛くないですしぃ！」
　因が両手で拳を作って、ぴょんと元気にジャンプして見せる。
「因も見るものいっぱいすぎて、ふらふらしてましたぁ。これとかかわいくないですかぁ？？」
「因と言うのか。自分は楓子だ。……そのシマシマは二―ソックスか？」
「そーなんですよぉ！　アリスっぽい白黒と、チェシャ猫さんのピンクと紫なんです！」
　因が顔の前で２種類の二―ソックスをにぎる。白黒の方は制服に似合いそうだが、ピンク紫も因の小悪魔な雰囲気に似合っている。
「どっちもかわいくって～♪　どっちが因に似合いますかねぇ」
　楓子はしばし考えると、因の目を見て
「因氏、欲しいアイテムをゲットするなら課金あるのみ。つまり両方買うべきだ」
　と、静かに告げた。親指も立てる。
「……！　そーですよねぇっ！　おサイフと相談している間になくなっちゃったら大変です！」
「限定アイテムを取らないで後悔するのは初心者がやることだ。どちらも似合っているし、片方を選ぶなんて楓子にはできない」
「楓子さん……っ！　よーっし、決めちゃいました。両方買っちゃいますぅ。因のかわいさを磨くためには必要な出費ですよねっ。あとでパパにお小遣いおねだりしーようっと♪」
「うむ。それがいい」
「楓子さんもいっぱいお買い物しましょ～。因、このお店よく来るからアドバイスしますよぉ」
「おお、それは助かる。楓子はタイツを買いに来た。このダイヤ柄いいな」
「このタイツ可愛いですよねぇ！　定番の白黒もいいけど、限定の水色も絶対似合いますよぉ」
「限定と名が付くと欲しくなる不思議……」
「うふふ。じゃあ、それキープしちゃいましょ～。楓子さんのクールな雰囲気だとこっちのパーカーも素敵ですねぇ」
「黒のパーカーか。学校にも着ていきやすそうだな」
「トランプ模様でかわいさも抜群ですぅ。ここはリボンもかわいいのいーっぱいなんですよぉ。あ、でも楓子さんならネクタイも似合いそうですぅ！」
「ネクタイか。たまにはいいかもな。ん？　あそこのハート柄のカーディガン、因氏に似合いそうだな」
「わあっ、よさそうですねぇ♪」
　お互いをマネキンにしながら、楓子と因はあれもいい、これもいいと盛り上がっていった。

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