装飾譚：通学服「Wonderland」｜リアクション

装飾譚：通学服「Wonderland」

「うふふ。春物のお洋服、素敵な色なのです」
　美咲紀が口元に手を当ててニコリとほほ笑んだ。艶のあるポニーテールが揺れる。美咲紀に買いものに誘われた修は店内を見まわしながら、新作が多いなと返事をした。
「女子のアイテムが多い店だな。今日は何か欲しいものがあるのか？」
「学校用のカーディガンが欲しいのです。もうすぐ先輩になりますからね。落ち着いた雰囲気のものが欲しいのですよ」
「なら、あちらのコーナーだな。試着するなら荷物を預かろう」
「助かりますーっ。実は、今日はシュー君に異性の意見を貰いたくてお呼びしたのです。
　もうすぐ新入部員勧誘の季節ですよね？　未来の後輩たちに頼りになる知的な先輩って思われるように、ちょっとイメチェンしたいのです」
人差し指をこめかみに当てて美咲紀が難しい顔をする。
「俺でよければ意見を言うが……知的な女性の先輩か。改めて聞かれると難しいな」
「メガネは禁止ですよ？　くすくす」
「うーん……。女子の流行は男にはわかりづらいことが多いから、シンプルで上品なものがいいんじゃないかな。春らしい淡い色が似合う人は話しかけやすそうでいいと思うよ。こういうのはどうだろう」
　修は近くにあったパステルカラーのブラウスを手に取った。アリスカラーの淡い水色で、細いリボンが胸元で蝶結びになっている。
「ん？　これは通学用の服ではないか。ここは普通の服も扱っているんだな」
「ですね。でも、シュー君が持ってきてくれたブラウス、そでがパフスリーブになっててかわいいです！　あっちにあるフレアスカートと合わせて着たいですね……この組み合わせ、どうですか？」
　美咲紀が体の前にブラウスとスカートを持ってくる。
「綺麗な色の組み合わせだな。その服、少し借りてもいいかな」
　修は受け取った服を裏表にひっくり返し生地を軽く引っ張った。縫製は問題なさそうだ。
「着心地よさそうだな」
「機能性以外の意見も欲しいです！」
「女子の服は男物に比べると軽いな」
「シュー君。シュー君。データの報告じゃないんですから」
「……む」
　どうしたものかと修の眉が寄った。修の顔を見て美咲紀が面白そうに笑う。
「確かにこの服はふんわりしています。風に揺れたら可愛いだろうなあ。
　シュー君、私、これ試着してきますね」
「わかった。待っている間にカーディガンの候補を探しておくよ」
「助かりますー♪」
　修は美紗紀が試着している間、店員を呼んでカーディガンをいくつか準備しておいた。時間が余ったので男性向けの小物のコーナーを眺める。
　やがて、試着を終えた美咲紀が満足そうな笑顔で修の元に来た。
「お待たせしました」
「どうだった？」
「さっきのブラウスとスカート買っていきます♪　シュー君、何を見ているんですか？」
「手袋を見ていたんだ。朝はまだ冷えるだろ？」
「スペードのワンポイントが付いてるんですね。かわいいのです！」
「そうか？　なら買っていこうか。
　あと、店の人に聞いてカーディガンを揃えておいた。気に入るものがあればいいな」
　店員が持ってきたハンガーラックにアイボリー、白、紺など落ち着いた色のカーディガンがかけられている。美咲紀はそれらを手に取って眺める。アイボリーのものが気になるようだ。
「シュー君、寝子高は学年が変わっても校章の色は同じですよね」
「ああ。俺達は来年からもずっと赤だな」
「これ見てください。このカーディガン、袖と裾に校章と似た色の赤が使われてるんですよ。私たちの学年にぴったりじゃないですか？」
　アイボリーのカーディガンはハートの女王を意識したデザインのようだ。取り外しのできる女王の冠の形をしたブローチが付いている。
「ああ、いいと思うが……女子はそういう偶然が好きだな」
「運命を感じちゃうんですよね。あ、あっちのウサギ柄のポーチもかわいいです。持ち手がついてていっぱい入りそう。シュー君、これちょっと持ってもらえますか？　店員さん。すみません、あのポーチって何色がありますか？」
（……買うのが確定したものは先に包んでもらうか）
　レジに取り置きしてもらっている美咲紀の選んだ服の山は、紙袋ふたつでは足りない状態になっている。
（運転手にも手伝ってもらおう。ついでにカフェの空き状況も聞いておくか。美咲紀が好きな店の名前を検索して――）
　修は電話を掛けるため、美咲紀に断って店の外に出た。

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装飾譚：通学服「Wonderland」

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