装飾譚：通学服「Wonderland」｜リアクション

装飾譚：通学服「Wonderland」

【平日編】

「あれ？　あの三つ編みの子は……」
　放課後、ティアラに遊びに来た桜庭円は上りのエスカレーターで見慣れた後姿を発見する。同じクラスの御巫時子だ。
「やっほー、時子ちゃん！」
　円が元気に挨拶すると時子は上品な笑いを浮かべる。
「まあ。こんにちは、円さん。お買い物ですか？」
「うんっ。ねこったーで見たアリスのお店が気になって遊びに来たの。時子ちゃんは？」
「私は春に使えそうな小物を探しに来たんです。円さんの行きたいお店にもよろうと思っていたので、よかったらご一緒しませんか」
「いいの？　ありがとう！　時子ちゃんと一緒にお買い物嬉しいな～」
　跳ねるように歩く円を、時子は微笑ましい様子でニコニコと見つめていた。店の前に付くと円がうわーっと歓声を上げる。
「すごーい。アリスのグッズでいっぱいだね！」
「ふふ。全部可愛くて困ってしまいますね。今日は新しい雑貨の入荷日なんですよ」
「詳しい！」
「この前お買い物したときに、お店の方に教えていただいたんです」
　そう言って時子は和風な色合いのアリスたちが描かれている手帳のサンプルを手に取った。月ごとに有名なシーンが描かれており、誕生日や試験日用のシールも付いている。
「その和風のやつ、時子ちゃんにぴったりだね。ボクも手帳買っちゃおー。どれがいいかなあ」
「円さんは動物がお好きですよね。……こちらはいかがでしょうか」
　時子はモノクルを付けた白うさぎの手帳を選んだ。白うさぎは紺色のチョッキを着て懐中時計をにぎって慌てている。
「お洒落だなぁ！　ボクも懐中時計持っているんだ。白うさぎとおそろいだね。
　時子ちゃん、ソックスやマフラーも見てみていい？」
「もちろんですよ。私もソックスが欲しかったんです」
「あっ。ニーソックスもあるね！
　ニーソックスで学校行ったら怒られるかなあ。私服用に買っちゃおうかなぁ。せっかくなら、白うさぎイメージの服をいっぱい買っちゃおうかな？」
「そちらの二―ソックスにはトランプ柄のスカートも合いそうですね」
「うわあ、この組み合わせは最強だよ！　スカートと同じ柄のマフラーもある。かわいいなー。欲しいなー」
　円は時子にアドバイスをもらいながら白うさぎをイメージしたお洒落を楽しんだ。財布の中の諭吉は３人である。
「うーん、うーん……全部は買えないなー」
　値札とにらめっこする円を時子がニコニコと見守っている。
「ボクの買いものに付き合わせてごめんね。時子ちゃんも欲しいものがあったら遠慮なく見てね！」
　ハッと気づいた表情の円に、時子が花のような笑みを浮かべる。
「円さんは表情が豊かで、ご一緒していてとても楽しいですよ。私は……この紺色のものが気になりますね」
　光の加減でトランプ柄が浮き出る加工の靴下だ。キーホルダーも気になった。アリスと帽子屋が桜色の服を着ている春限定のデザインだ。
「小さいアリスと帽子屋だ！　ふたりいればお茶会ができるね」
「アリスと言えば、お茶会ですね。……来月の今頃は桜も咲いているでしょうか」
「ボクシング部にもたくさん後輩が来るといいな」
「きっと、たくさん入部してくれますよ。
　円さん。２年生になってもよろしくお願いしますね」
「えへへ。こちらこそ、よろしくね！」

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