進路相談、君等の道２【普通科編】｜リアクション

進路相談、君等の道２【普通科編】

●普通科３年３組

【猫田忍の場合】

「猫田……は木天蓼大学を志望しているんだね」
　明るく気さくな担任の若杉勇人先生が「猫田」と「は」の間で一呼吸入れてしまったのは、男子の忍がポニーテールのかわいこちゃんだったからである。しかも大きな紙袋持参だ。
　中からレースっぽい何かが覗いていてそれも気になるのだが、ひとまず若杉先生は冷静に告げる。
「問題ないと思うよ」
　すると忍は空手５段の力強さで先生の手を掴み訴えた。
「進路のことより先生に相談に乗って欲しいことがあるんですっ！」
「……ごめん！　俺は生徒と恋愛は……」
「違います！」
　忍は真っ赤になって否定する。
「ろっこんってあるじゃないですか？　僕もそれが使えるんですけど何かしょぼくて」
　先生は何のことやらわからず固まっている。
「『魔法少女メイドシンデレラ☆しのぶ』――僕のろっこんは、メイド服を着て直接背中を撫でられないと駄目なんですが、にも関わらず能力としては性別が変わるだけなんです。こんなんでフツウを守れるか分かりません！」
　フツウを守る『魔法少女メイドシンデレラ☆しのぶ』？　なにかのアニメだろうか？
　目の前の彼はコスプレとかそういうジャンルの話をしているのだろうか？
　しかし彼は俺に相談がしたいと言っているのだ、もう少し話を聞こう……みたいなことが若杉先生の頭を走馬灯のように駆け廻る。
「一応空手である程度なら戦闘も可能ですが、それ以上のポテンシャルもありません。嘘だと思うなら実際に見てもらった方が早いです！」
　そういうと忍はいそいそと制服を脱ぎだした。
「猫田、俺たち男同士だけど学校で二人きりのときそういうのはさすがにまずいというか……」
「あ、ご心配なく。下にシャツや半ズボンを着てるので。すぐ着替えます！」

　紙袋の中身はメイド服であった。
　若杉先生の思考はまったく状況についていけていない。
　かくして目の前に早着替えしてふりふりレースのメイド服に身を包んだ男子生徒・猫田君が現れた！

「先生お願いします、僕の背中を撫でてください」
「いや、俺も教師だし……」
　若杉先生は謎プレイだと思っている。だが忍も折れなかった。
「お願いします！　早く！」
　……断れなかった。
　そろそろと背中を撫でる。
「どうですか？」
　上目遣いで忍が尋ねる。
　どうと言われても困るが……いや、なんだろう、どことなく……。
　瞳がきらきらになったような……。
　唇がつややかなピンクになったような……。
　女の子みたいですごく――可愛くなったような！？
　若杉先生が言葉に詰まっていると、忍がしょんぼりと言った。
「僕のろっこんしょぼくないですか？」
「ええと、……」

　すでにお気づきだろう。
　若杉先生はひとなので、ろっこんがなんなのか分かっていなかったのである。
　しかもろっこんはひとの前で発動しにくいという特性があり、忍のろっこん＜魔法少女メイドシンデレラ☆しのぶ＞は非常に中途半端に発動していた。つまり「あれ、なんか女の子っぽくなったかも」という程度に。
　しかし若杉先生、さすがは大人の男！
　ろっこんとはメイドなんとかというアニメの、キャラクターごとの必殺技のようなものだろうと察して、なんとなく話を合せてきたのだ。

「ろっこん（？）に強い弱いの概念は無いと思うよ。それぞれに良さがあるから適材適所なんじゃないかな」

　それを聞き忍が嬉しそうに表情を綻ばせる。
　若杉先生はよかった、と胸を撫で下ろす。この答えで正解だったみたいだ。
　その後、忍には早々に元の制服に着替え直して貰った。
　幸いなことに『メイド服男子と若杉先生のアブナイ放課後！』みたいなニュースはどこにも出なかった。
　
　――やれやれ！

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