進路相談、君等の道２【普通科編】｜リアクション

進路相談、君等の道２【普通科編】

●普通科２年５組

【澪乃澄佳の場合】

　澄佳は父の転勤で寝子島にやってきた道産子さんである。
　担任の牛瀬巧先生が関東に来てもさっぱり抜けない関西弁なので、ふたりの会話は互いの方言で可愛らしいことになる。
「食べ物好きで、料理人のお父さんのことさ見てたら、食べ物に関わる仕事さ就きたいなあて。したっけあたしは理科が好きだから、栄養学がいいんでないかて思いついたんです」
　したっけ、というのは、そしたら、という意味だ。
「すごく単純な発想だけど、でも思いついたらこれだ、としか思えなかったんです。美味しいもので人を助けれる、て思えばっ！」
　身を乗り出してそこまで語り、澄佳ははっとして頬を染めた。
「やだつい熱くなって……恥ずかしいっ」
「なんも恥ずかしくないで～。澪乃さんの本心なんやろ？」
「はいっ」
「ええやないか～」
　生徒が夢を持ってくれることが何よりうれしい。そう言わんばかりに牛瀬先生は満面の笑みを浮かべる。
「名寄市立大学が第一希望なんやな～。これは北海道の？」
「はい。ただ、そこはまだ悩んでて……学費考えて行くなら国公立かなて思ったのと、あたしとしては、いずれ北海道さ戻りたくて、それなら向こうで進学して就職したいて思って栄養学科のある名寄市立を第一希望にしたんです。でも……」
　澄佳はしゅん、と瞳を伏せる。
「それで家族と離れるのが不安なんです。いつか独り立ちするとしても、急に遠くなっちゃうなて」
　澄佳の一家は今、シーサイドタウンに家を借り、両親と兄が同居している。父方の祖父母も島民だ。姉は北海道に残っていて澄佳が北海道に戻ることになれば心の支えになってくれるだろうが、もちろん姉には姉の暮らしがあり、名寄の大学に通うことになれば澄佳は寒い北国で一人暮らしをしなければならないだろう。
「それに、寝子島の友達ともきっと離れ離れて思うと……」
　不安。
　その一言に尽きる。
　それを聞くと牛瀬先生は我が子を見るような愛おしさで澄佳を見た。
「せやなぁ。わかるで」
　でもな、と牛瀬先生は続ける。
「学生の内に一人暮らしをしてみるちゅうのもええもんやで。自立、ちゅうんかな。人間として強うなる」
　ワシもなー、と先生は遠い目をした。
「はじめて教壇に立った時不安やったなー。あそこに立ったら誰も助けてくれん、一人でちゃんと出来るやろかって。ところが今じゃなんてこともないし、実はみんなが助けてくれるってことも分かった。それと同じやで」
「同じ？」
「やればできるちゅうことや！　澪乃さんなら大丈夫！　気持ちも穏やかやさかい、新しいとこ行ったら新しい友達が出来るし、寝子島の家族や友達とも繋がっていられると思うでー」
　先生に太鼓判を押され、澄佳はその気になってきた。
「んむ……本当に、そうです？」
「先生は嘘はいわん！」
「えへへ……ありがとうございます。前向きな気持ちになってきました！」
　照れつつも澄佳の笑顔は清々しい。
「あとは、三年生の勉強さ頑張るのみ、かなっ？」
「その意気やで澪乃さん！」
　牛瀬先生のエールは心からのもの。先生はいつでも生徒の夢を応援しているのだ。

このページにイラストを設定する