進路相談、君等の道２【体育科編】｜リアクション

進路相談、君等の道２【体育科編】

●体育科１年９組その２

【志波拓郎の場合】

「まだ一年で……正直、ぼんやりとしか、かんがえて……ないけど……」
　拓郎は、いつもの朴訥な話し方で、ひとつひとつ吟味するかのように言葉を紡ぐ。
「陸上、幅跳び……つづけたい、です」
　陸上部で跳躍競技を得意とする拓郎の進路希望調査票には、『木天蓼大学体育学部進学希望』とあった。
「何処かの企業の実業団……そこに入れば、社会人になっても続けられるなら……大学で、実力付けながら就職を目指したいので、体育学部を、目指そうか……と思ってます」
　高野先生は腕組みして頷いた。
「たしかにマタ大ならスポーツを続けるにはいいよな。近いし」
「はい……思いつく所が、木天蓼大学だったんですけど……ほかにも、いい大学あれば、教えてほしいです」
「いい大学かー。逆に聞くけど、こんな感じの学校がいいな、とか希望はある？　地元は福岡だったよね。そっちに帰りたいとか」
「幅跳び、できれば、とくには……、」
　と、そのとき拓郎はひとつだけ条件を思いつき、ぼそり。
「兄貴とは、違う大学が、いい……かな、とは……」
「カカカカッ。かーわいいこと言って！　私が兄貴だったらぐりぐり抱きしめるところだよ。いやま、正直なこというと、そういう選択肢があるかどうかはあれだな」
　高野先生が翳したのは高校生の命運を左右する紙切れ、成績表。
　拓郎は言葉に詰まって目を逸らす。そこに書いてある数字に自信がなかったのだ。
　もちろん先生の方だってそんなことは百も承知である。だから敢えて何も言わない。
　ややあって、拓郎はおずおずと切り出した。
「今から、頑張れば……スポーツ推薦とか、もらえたり……するんでしょうか？」
「そりゃあ可能性はあるよ。ただ大概の大学は、スポーツで功績を残したかどうかの他に、学業成績が一定の水準に達していることも、推薦の条件なんだよな」
　拓郎の背中が、子泣き爺にでも憑りつかれたかのように重たく丸まる。
「その、数学物理は得意だけど……英語とか、社会とか、苦手で……」
「みたいだね」
「公式１つ覚えたら応用で色々できる理数と違って、覚えることだらけの英語やらは眠くなるというか……集中力が続かない、というか……最近は大分、頑張ってはいるんですが……追試になることが多くて……」
「推薦狙うんだったら、全科目平均が学年で真ん中より上を目指したいよな」
「です、よね」
「志波がやればできる奴なのはわかってるからさ、スポーツもだが苦手教科も頑張っていこうな！」
「ハイ」
　苦笑まじりに返事をし、それから何気なく拓郎は訊いた。
「英語とか社会とか、暗記って……どうやったら、できるようになりますか？」
「え！？　いや、それはだな……」
　狼狽える高野先生。視線をあらぬ方向へ彷徨わせ、一言。
「腹筋、か？」
「ふっ……きん？」
「ばか！　私に訊くなってことだ！　そういうことは英語の島岡先生とかに訊くように！」
　赤くなった高野先生がちょっと可愛らしく見える。
　頼りになるけど、ならないところもあって、そういうところは先生も自分も同じだなと思うと、なにやら気持ちが和む拓郎であった。

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