星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●せめて叶うならば
　どれぐらい意識を手放していたんだろう。
　指先にざりざりとした物が当たる感触がして、逆巻天野はうすら目を開ける。
　手に触れたものが何か確かめると、いままでどこかへあそびに行っていたのか、天野が飼っているハリネズミが指先をなめていた。
　もう１匹、おてんばな白のハツカネズミは登山感覚で体をよじ登り、寝転んだ天野の顔をのぞきこんでいる。
　自分が考え事をしているあいだにも、この２匹は食べられる草を探していたらしい。
　そんな彼らに尋ねてみたくなり、ハツカネズミのほうを手のひらにのせてこう口にした。
「ねえ、君たちは友だちできた？」
　餌探しに一生懸命な小動物たち。当然ながら答えはないが、生きることに全力で精一杯な彼らをみているだけで気力がわいてくる。
　天野は手首にはめているブレスレットのことを思い出し、今なら試せるだろうかと思案する。
　これは以前夜のアクアリウムに出かけた時に、ある人におみやげとしてもらったものだ。満月の夜にこれに願い事をすれば、叶うらしい。
　今夜は月齢自体は満月のはずだが、いま夜空に月は出ていない。それでも叶うだろうか。
（「ふだんは願かけなんて、信じないけど」）
　これをくれた人がその場で実演していたやり方を思い出す。手首を宙にかざし、ムーンストーンに口付けをして願いを告げる。
　もし、願いが叶うなら。
「……友だちが欲しい。喧嘩してしまった人と、仲直りがしたいんだ」
　そう願ってから、果たしてこれは聞き入れられるのかと不安になる。願ってどうにかなると思えるほど、天野は楽観的にはなれない。
　心ににじむ失望。それでもあきらめたくないという気持ちが、もうひとつの願いを天野の胸にはこんだ。
「もし、さっきの願いが無理だというのなら。せめて、今夜は」
　天野の唇が願いを紡ぎだす間にも、星は降る。
　はるか上空で宇宙の星くずがまたひとつ、引力にとらわれ大気圏へと落ちていく。
　高速落下をつづける星が、この星の可燃性ガスに触れて発火する。

　――なるべく多くの星を降らせて。みんなが喜ぶように。

　天野がムーンストーンに願いをよせる。時を同じくして、流れ星が長いラインを夜空に引いた。

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