星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●はねをやすめて
　ラーメンとお弁当で元気を補充して、女の子たちの星空トークはまだまだ続く。
　楽しそうにしゃべる輪の中で、御鏡聖はすこし考え事をしていた。
「流れ星に、何をお願いすればいいんでしょうか」
　ひとりごとのつもりで呟いた聖の言葉に、奈良橋博美が反応した。
「聖もなにかお願いするのか？」
「はい。皆さんがしてるのを見て、私も何かお願いをしようと思ったのですけど……」
　沈黙のあとになにか続く言葉があるとみて、博美は静かに言葉を待つ。
「最初は、立派な巫女になれますようにってお願いしようと思ったんです。でも、これは私自身が努力することですから……」
　だから聖の考える願い事は、『これからも素敵な毎日が送れますように』というものだった。
「これも、私が頑張れば良いんですけど……ね」
　がんばる、努力。その言葉は博美にとってもなじみ深い。普段なら自分もそうやって努力を続けるべきだと思うのだが、この日はいつも通りから離れてみたかった。
「うん。俺も普段なら、自分で努力すればいいかなと思うんだ。けど」
「けど……？」
　博美は慎重に言葉を選びながら、ここからはまとまっていないという前置きつきで自分の考えをゆっくりと語る。
「長いあいだ武道をやってるんだけど、努力した人間が勝つとはかぎらないんだ」
　毎日練習をしている人が、ほかの誰かに打ち負かされる場面もみた。それを努力が足りなかったと捉えることもできるが、個人の努力とは別のところにある何かがあって、それも大切なんじゃないか、と。
「毎日鍛錬を積むことと同じくらい、こうやって全体……人のことを知るのも、強さにつながるんじゃないかなって」
　有意義な努力、自分のための努力、本人にとって意味のあること。
　そういったものにだけ専念している間は、見えてこない他人の姿がある。
　目標にむかうのとは無縁に思える時間にも、こうやってまわりの人の考えを聞くことができている。
　だから。
「意味があることである必要も、ないんじゃないかな。こんなきれいな星空のもと、意味を持たせるなんて小さなことにこだわる必要もないと思う」
　ひとしきり語り終えた博美は、まわりが自分の話に聞き入っているのにようやく気づく。
「いや、こんな講釈たれるほど俺も強くはなれてないんだけどな。道の途中だ」
　謙遜しながら、ほんのちょっぴり頬を赤らめる博美。
「……そうですね。今夜は肩の力を抜いて、この星空を楽しみましょう」
「そうアルよー！　楽しく生きるのが一番アル！」
　畑中華菜子が誰よりもシンプルな答えをだすのを聞き、自然と楽しい笑い声があふれだす。そこにいるだけで、場の雰囲気がぱっと明るくなる。これもまた立派な才能だ。
　和やかになったのもつかの間、冷たい夜風が吹き込んできた。
「……ちょっと寒くなってきたね」
　湯浅月子が身震いするのをみて、榊原飛鳥がそうだ、と自分の荷物をあさる。
「すっかり忘れてたっ。ひざかけ毛布もってきたから、よかったら使って！」
「わ☆　ありがとー飛鳥ちゃん！」
「お、気が利くじゃん！」
　毛布をくばって、飛鳥はなるべく足元をくるんだ方がいいよという。生まれ育った地方ゆえか、飛鳥の防寒に関する知恵は豊富らしい。
「上半身の冷えも気になるけど、屋外では足を冷やさないほうがいいんだって」
　おしゃべりに夢中になっていた間に、レジャーシートに少しだけ夜露がついていた。一度立ち上がってシートの露をはらい、ついでにすこし体を伸ばす。
　腰をあげた時に、聖は自分の肩や背中がずいぶんと硬くなっていたことに気がついた。寒さ以外のものも、あるのかもしれない。
　――私の体は、こんなにこわばっていたんですね。
　ほんの少しだけ足をくずしてシートに座る。明日からも続く学校の勉強、厳しい修行。そんな毎日に耐えるには、結構な気力がいる……だから、いまは。
　――こんなふうに自分を休めるのも、努力といえるでしょうか。
　いまは羽休めのとき。明日からまた一歩ずつ、日々を歩いていくために。

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