星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●星空にふたり
　ゆるふわウェーブの髪をかきあげ、丑都渡紗姫が星空をあおぐ。
「……メチ降ってんね、星ー」
「ああ……なかなか綺麗だ」
　行梨謡も隣にどさっと腰かけ、空を見上げる。少し街をはなれるだけで、ひとつひとつの星がよく見えるなんて知らなかった。紗姫に誘われなければきっと、知らないまま過ごしていた。
　たしかに綺麗だ。思ってたよりも、という付け足しはぐっと飲み込む。墓場じゃなければ尚よかったんだが……坂道をおぶるハメになった身としては最初に言い出した人をすこしだけ恨みたくなる。
「こうやって手伸ばしたら届きそう」
「気持ちはわからんでもないが無理だ、あきらめろ……」
　絶景ポイントを探し歩いただけあって、この場所からの景色と星空に紗姫は満足している様子だ。
　ちなみに、おんぶは途中でおろしたらしい。主に帰りのことを考えて。
「だってさー」
　先ほどの返事に不服だったのか、紗姫は口を尖らせている。
「絶対届かないってわかっちゃうと、なんか悔しくない？」
　一瞬だけ、謡の心拍数がはね上がる。
　乙女チックお断りなフリして、不意打ちでこういう事を言うから紗姫はズルい。
　挙動不審になりかけたのを隠し、なるべくいつもの調子でツッコミを返す。
「一生届かない風にできてんだよ……」
「ごめんね、っと。むー……この高さじゃやっぱ無理か。えいー届けー」
　後ろで紗姫は何をやってるのかと振り返れば、見知らぬなんとかさんの墓石のうえに鎮座する紗姫。
　一応ここにあるのはどれも、死後の安息のためのだいじなお墓なわけで――なんて真似をしてくれる。
「どうして墓石に登ってるんだ……バチが当たるぞ」
「ちゃんと先に謝ったよ？」
　いや、そういう問題か。そういう問題で片付けていいのか。謡は頭をかきむしる。このままじゃ紗姫のペースだ、落ちつけ俺。紗姫が言うこと聞きそうな言い方をひねり出せ。
「ダメなもんはダメなのでとっとと降りてください」
「じゃあ肩車して」
　返す刀でずんばらりん。ワガママ言い放題の女王様にくじけそうだ。
　墓の人に迷惑かかるよりマシかと、しぶしぶ承諾する。
「はーいモタモタしないでヨウ乗せてー」
「やるだけ無駄だと思うがな……っと、ほらよ」
　１７７ｃｍの謡に担がれ、星空がぐっと近づいた気がした。これはこれでなかなか新鮮な眺めだ。
「おおーすごいーけどやっぱ届かない。もうちょっと……」
　紗姫があちこちの星へ手を伸ばすものだから、肩車をする行梨はたまったものではない。
「たのむから立つなよ、ってかふともも！　はさんでるはさんでる、あと首しまるから襟をはなせ……！」
　それからも紗姫はきゃいきゃいはしゃいで、肩車は右へ左へぐらぐらと揺れうごく。
　大人しくなったと思えば、そっと担ぎ下ろした紗姫は目を離した隙に寝息を立てて眠ってしまった。
「……あのー。送ってこうにも俺、紗姫ん家知らないんですけど」
　謡がジャケットをかぶせても身じろぎひとつせず、ワガママ女王様は一足お先に夢の中。
「……まあ、少しの間だけ起こさないでおいてやるか」
　眠ってしまえば、女王様もかわいいものだ。