久保田先生の女子力アップ大作戦！　手芸編！｜リアクション

久保田先生の女子力アップ大作戦！　手芸編！

　綾辻綾花と七夜あおいが北校舎の２階へ続く階段をのぼっている。３学期も終わりに近づき校内に人は少ない。春の訪れを感じる気持ちのいい風が、グラウンドで練習している運動部員の声を運んでいた。
「ねえねえ、綾花ちゃん。今日はにぎやかになりそうだね」
　あおいがニコニコ笑顔で綾花に尋ねる。久保田先生が家庭科同好会で女子力を磨くと宣言したのが先日のこと……。今日は久保田先生以外にも同好会に興味を持ってくれた人が遊びに来てくれると聞いていた。
「ふふ、色々な方が来てくれると嬉しいですね。私、皆で食べようと思ってクッキーを焼いてきたんですよ」
「わあっ、やったー！　綾花ちゃんの手作りなんて美味しいに決まってるよ」
　あおいのツインテールがぴょこんと揺れる。跳ねるような足取りのあおいを綾花が優しい瞳でとらえた。

「父からモテない遺伝子を受け継いだ、久保田美和。２８歳。独身。
　三十路の足音を背後に感じ不安に襲われ、今更という気もしないでもないですが、女子力を磨く決意を固めました。よろしくお願いしまーす！」
　家庭科室で久保田先生が敬礼のポーズを取りながら挨拶をすると、一緒に付いてきてくれた尾鎌蛇那伊や椿美咲紀がパチパチと手を叩いてくれる。今日は同好会メンバーのほかにも、久保田先生が来ると聞いて（または、一方的に一緒に行こうねっと約束されて）やってきた生徒が何人かおり人口密度が高かった。
（理由がなんか不純な気もするけど、ま、まあ同好会に来てくれるのは歓迎だよな）
　同好会メンバーの滝原レオンも内心苦笑しながら手を叩く。服飾専攻のレオンは裁縫に明るい。それぞれが自分の裁縫道具を広げて作業を始めると、レオンは錦織彩と久保田先生の机に向かった。
「彩ちゃん、レオン君。今日はよろしくね！」
　久保田先生のキラキラした笑顔がまぶしい。
「ところで、私今日手ぶらなんだけど何から始めればいいかな！」
　久保田先生はまったくのノープランだった。
「え、えと……先生は……『女子力』を、あげたいん、です、よね……？」
　彩がセーターのすそをぎゅっとにぎりながら訪ねると、久保田先生はイエスっと大きく頷いた。
「そうなのー！　ど素人だから何が向いてるとかさっぱりなんだけど、色々教えてくれると嬉しいな」
「俺でよければ多少の指南はしますけど、何をやるかが決まってないからなー。今日は手芸にどんなのがあるのか見てもらうのがいいすかねえ」
「あ、そだね。それがいいかも！　授業以外でみんなとお話しできる機会って少ないし、みんなが得意だったり好きなこと教えてもらいたい！」
　レオンの提案に久保田先生が両手をパンと叩いて応える。
「えと……じゃあ、みんなから……少しずつ教わることに、しましょう……」
「はーい！！　彩ちゃん、レオン君。色々考えてくれてありがとねっ」
　久保田先生に礼を言われ、彩とレオンは一瞬お互いの視線を交差させ、仕方ないなあという風に笑った。

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