ドキッ☆　男だらけの料理教室！　～ペロリもあるよ～｜リアクション

ドキッ☆　男だらけの料理教室！　～ペロリもあるよ～

「ねえねえ、知ってる？　刀くん」
１年１組の教室。
昼食後の授業でうとうとしていた御剣刀は、千鳥雅人の声に薄目を開ける。
「グルメパンダの店長が料理教室やるんだって！　よかったら一緒に参加しようよ！」
「え、いいけど……あの店長が教える側なのか？」
「そだよー。びっくりだよね。俺、この話前にバイト先で仲良くなった子から教えてもらったんだけど、信じられなくて確認しちゃったもん」
雅人が頭上のアンテナを揺らしながら笑う。雅人と刀は以前グルメパンダで短期のアルバイトを経験していた。当然、店長の平野とも面識がある。平野は無口で照れ屋という典型的な引っ込み思案。人前で話すのは大の苦手なはずなのだが――。
「あの店長に会うのも久しぶりだな。千鳥、俺も参加してみたい」
「やった！　じゃ、早速申込みしておくねー♪　いっぱい勉強して、いっぱい皆にご馳走してあげたいな～」
「ご馳走か。じゃあ今度パーティーでも開こうか」
雅人の誕生日が今月……10月末だったことを思い出しながら提案すると、雅人はボール遊び前の犬の様に体を弾ませた。
「いいね～。中華パーティー？　秋の味覚パーティーもいいよね！」
「ああ。千鳥が好きな料理がいっぱい出るような奴にしよう」
「うんっ。みんなが美味しいって言ってくれるように頑張らなくちゃ！」
「で。千鳥が最初にご馳走したい相手は誰だ？」
刀が口の端を持ち上げて尋ねると、雅人は慌てたように下手な口笛を吹く。
「そ、それはー……ふぃーひょろー」
「吹けてない吹けてない」
「あっ。そういえば保健委員の頼まれごとがあって！　ちょっと行ってくるね～っ」
てててーと走り去る雅人が教室を出ていくと、刀は小さく笑って伸びをした。

今日も平和に学校が終わった。まっすぐ家に帰るのもつまらないと思った須崎蒼志は、本屋にでも寄ろうかとシーサイド駅付近をぶらぶらしていた。
「……なんか、腹減ったなぁ」
腹に手を当てる。胃袋がぐうぐうと不満げな声で鳴いていた。本屋の前にハンバーガーでも食べて行こうかと考えていた矢先、蒼志の背中におどけた声がかけられる。
「ん？　あそこにいるのは須崎蒼志君じゃないかー」
蒼志が緩慢な動作で振り向くと、眼鏡をかけた糸目の先輩・呉井陽太が立っていた。
「どうもーっす……」
「こんなとこでどうしたんだーぃ。お財布でも落しちゃった？　哀愁漂う背中が人ごみの中でもはっきり見えたよぅ」
「……腹が、減りまして」
「おや」
「……なんか、安くて腹いっぱいで、近くにある店ないっすか？」
後輩の悩みを聞き、そうだねぇ。と陽太は首をひねり柏手を打った。
「ああ、ならグルメパンダがいいよぅ。ここから木天蓼大学に行く途中にお店があってねぇ。安くてボリュームあるって聞いたよぉ」
「どうも……じゃ、そこ行くっす」
「うんうん。俺も用事が無ければ一緒に行きたかったんだけどねぇ……。蒼志君、今度一緒に遊ぼうねー」
「うぃーっす」
蒼志はぺこりと頭を下げると、ふらふらと揺れながら橋の向こうへと歩いて行った。
「蒼志君て中華好きなのかなー……あ、人にぶつかってる」
不思議な子だなぁ。
陽太は蒼志の後ろ姿をしばらく見守り、踵を返して雑踏に消えた。

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