そうだ、秋を探そう｜リアクション

そうだ、秋を探そう

【鳥さんたちといっしょ】

　その日、御巫時子もまた秋の九夜山を見下ろしていた。
　ただし、その場所は瑠樹が見下ろしていた場所よりもさらに高い――空の上である。
（空から見下ろす秋の九夜山、とっても素敵です。鳥さんたちはいつもこんな景色を見ているんですね）
　ろっこん《鳥の囀り》の進化能力によってスズメに変身した時子は寮に遊びに来た鳥達を誘って、九夜山の上空を風のように飛びまわり、その景色の美しさに感動していた。
　麓から頂きにかけて赤から黄へのグラデーションが時子の心に、『秋』を感じさせる。
（せっかくですから少し降りて、もう少し秋を探してみましょう。変身を解く姿はほかの人には見られないように）
　時子はスズメの姿で人の気配のないところを選んで降り立ち、いそいそとその変身を解いた。
「ふぅっ……。今日はいい天気ですね」
　人の姿に戻り、ほぅっと息を吐く。
　見上げた空は青く、高い。
　絶好の散歩日和であると感じ、時子はそのままあてもなく道を歩き始めた。
　彼女の格好は寮で過ごしていた和服姿のままで、決して山歩きに適しているとは言えなかったが、やってやれないことはない。
「あ、あんなところに美味しそうな木の実がありますよ」
　時子は道すがら木の実などを発見すると、その都度近くにいた鳥達にその在り処を教えてやった。
「おいしいですか。それはよかったです」
　鳥たちのお礼の鳴き声に時子はふんわりと微笑する。
　彼女は鳥と同じ物が食べられるわけではなかったが、それでも鳥たちが美味しそうに木の実をついばむ姿を見るのは嬉しい。
「実りの多い秋になるといいですね」
　にこりと微笑んで、時子はその場を後にする。
「そういえば１０月１５日は『きのこの日』だそうですね」
　１０月はもっともきのこの需要が多い月であるらしく、その中心に位置する１５日にきのこの消費拡大を願って設定されたとか。
　今はまだ１０月上旬だが、きのこの多い時期であることに変わりはない。
「せっかくなのでキノコ狩りをしてみましょう」
　時子にはひそかに想いを寄せる男性がいる。
　その人物が野菜嫌いということで、少しでも美味しい野菜料理をつくる方法など調べているうちにキノコ類にも詳しくなってしまっていたのだった。
（大人なのに野菜が苦手なんて、困った人ですね……）
　くすりと苦笑しながらキノコの採取を始める時子の表情は胸中の言葉とは裏腹にどこかとても幸せそうだった。