本日限り！　なりきりチャンバラ劇団公演です｜リアクション

本日限り！　なりきりチャンバラ劇団公演です

【六幕】　代官屋敷の庭　⇒　帰り路　（千代、小町、猫太郎）

　屋敷の下手人達は全員捕らわれ、残された千代の瞼から零れる涙。
「ああ。代官と腹笑屋に騙されていたとも知らず……。ぼくは、ただっ……父の再士官の望みを叶えてやりたいと……っ」
　泣き崩れる千代の姿に感銘を受けた猫太郎は、静かに声を掛けた。
「……もしも、お上に千代さんの声が届いたならば、風向きは今より良くなると思うよ」
　だから元気を出して。
「はい。有難うございます。ぼくが泣いては父が心配しますよね」
　涙を拭う千代の顔が、毒花のように微笑んだ事は、誰一人見抜けなかった。
　千代は嗤う。
　胸に抱く野心と、盲目に父を想う心の狭間で。
　そこには、天下すら欺く事も恐れぬしたたかな娘の顔があった……。

「一件落着だね」
　捕り物騒動からの帰路。
「小町さん。金は必ず後日払うよ」
　ここまで追いかけて来たとは、真に恐れ入る。
　城に戻りさえすれば、すぐにでも払えるのだが……という言葉は飲み込み、
　「ツケにして」と、拝み倒す猫太郎の前で、「仕方ないなあ」と、くるりと袖を広げて向き直る小町。
　月明かりは煌々と路を照らし、可憐な椿の簪をみずみずしく見せた。
「次、来た時は詫びに、サンマさん丼十人前。店の売り上げに貢献して頂戴ね♪」
「それは多くて食べきれない。三人前で」
　七人前。
　五！
「よし来た。それで赦します」
「小町様。有難き幸せ」

　うふふふ。
　ははは。
　二人の他愛ない会話と笑い声が通り過ぎる頃、月夜の町に東風が吹いた。

【終幕】　代官屋敷の庭　（お銀）

　そろりと。
　もぬけの殻となった代官屋敷の庭先に、忍び寄る影がある。
　抜き襟から覗くうなじは色っぽく。
　全ての顛末を見ていた女狐のお銀である。

　艶やかな目線を投げ、琴をつま弾く音に似た声色を流す。
　──さて。
「誰が最後に笑ったか……『アンタ』は、賭けに勝てたかい？」

　市中に入り込んだ闇がある。
　一つ、鬼面の辻斬り・狩野兵臓。
　二つ、怨嗟を晴らす冷酷無比の天誅人。
　三つ、云わずもがな悪代官・冠部骨衛門。
　四つ、合理主義の腹笑屋。

　そして、五つ、千代───である。

「千代の腹の内は、悪代官達も、さぞや誤算だったろう。悪代官は見事、天誅人の手によって散り、国に蔓延る悪の根は、これで一つ断つ事が出来た。めでたしめでたし」

　──しかし。
　悪徳商人・腹笑屋は逃亡し、鬼面の辻斬り・狩野兵臓は禍根を残したまま去る結末となった。
「殿の苦労も絶えないねぇ……」
　お銀は面白げに呟く。

　人は善か悪か。
　正義の味方か非道の悪党か。
　判らぬから面白い。

　また何処かで、事件が起きた時、
　悪の根を摘まんとする正義の味方が集結する日も訪れるかもしれない。
　それまで暫し、ひとときの平和を、

「────ご堪能あれ」
　お銀は、するりと深く礼をした。

＜終＞

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