不思議なお菓子を召し上がれ？｜リアクション

不思議なお菓子を召し上がれ？

「また神魂か！」
　色とりどりの４つの小壜。
　少年になってしまった八神修のポケットを占拠しているそれらは、あの屋台の金平糖だ。
（試しにいちょうを食べていたらこんなことに……。迂闊に他の色を食べないほうがいいな。さて、これからどうしようか）
　険しい顔の修と同じように、向かいから歩いてくる女性も何だか不安げな顔をしている。
「あれ、おかしいなあ。この辺りにもない……」
　スーツのボタンが閉まらないほど豊満な胸。
　きゅっとしまったウエストと、スリットから見え隠れする健康的な太もも。
　バリバリの新聞記者……に見える椿美咲紀もまた、屋台で売っている金平糖を食べていた。
（ナイスバディに浮かれすぎちゃったのかな）
　美咲紀は少し前に食べたききょう色の金平糖を思いだした。
（あの屋台に行った時はあったのよね。それから町を歩いて……うう、毎日欠かさず牛乳を飲み続けようと決意したことしか覚えてないいい）
　探し物に集中していた美咲紀は背の低い修に気づかない。
　修は慌てて避けようとしたが時すでに遅し。
　ナイスバディにばいーんとぶつかられ、修は歩道に尻餅をついた。
「おい、気をつけ……」
　そこまで出かかって、修は今の自分の姿を思い出した。すぐさま演技がかった口調で、

「いったぁ～い」

　と、お尻をさする。
「え、ご、ごめんね！　大丈夫？」
　美咲紀はそれにすっかり騙され、涙目（嘘泣き）の修を引き起こした。
「怪我はない？　ほんとにごめんね、お姉さんちょっと探し物に夢中になってて……」
「探し物？」
　こてん、と首を傾げる修に、美咲紀の表情が和らぐ。
「そうだぼく、見てない？　こんなカメラ」
　手でおおよその形を作りながら説明する美咲紀に、修の推理スイッチがオンになる。
「それ、本当にここで落としたの？」
「分からないの。気づいたらなくなっててね。借り物だから、このままだと怖―い部……上司に怒られちゃう」
「どこにでもいるんだね、そういう人」
「そうなのよ、ぼくも大きくなったら気をつけなよ？」
　美咲紀は自分が所属する新聞部の部長の冷たい視線を想像し、身震いした。
　まさか当の本人が小さくなって目の前にいるとは夢にも思っていない。
「他にどこか行った？」
「そうだなあ……。あ、そう云えばバスに乗ったよ！」
　聞くが早いか、修は自分のタブレットを取りだした。
（え！？　小学生がタブレット？　でも五才児でもスマホが使える世の中だし……普通なのかなあ）
　いぶかしむ美咲紀の横で、修は素早く画面をタップする。
「何時のどのバスか、覚えてる？」
「え、ぼくも一緒に探してくれるの？」
「うん、俺……じゃないや、僕もお姉さんの力になりたいなあ」
　考えることに集中していた修は、忘れていた子供の演技を再開した。
　上目遣いで見つめられた美咲紀は、手で口を押さえ、眉を八の字にする。
「きゃ、きゃわ……ありがとうぼく……！」
　そんな美咲紀のリアクションに、修もまんざらではない。
「それじゃあよろしくね。えっと私、徳川葵って云うの」
　美咲紀は本屋の棚をちらりと見て、とっさの偽名を作った。
「あお…い？」
　だがその名前は、修が密かに思いを寄せる人物を思い出させた。
（あおいも大人になったら、こんなメリハリのある体型になって色気が出るのかな……）
　そんなことを考えていると、美咲紀が「ぼくの名前は？」と尋ねてきた。
　色ボケしてる場合じゃないと、修も本棚に目を向ける。
「葵ねーちゃんだね、僕は寝子川……ライトだよ」
「ライトくんね。よろしく！」
　かくして、正体を知らないまま、部長と部員のカメラを探す旅が始まったのである。