不思議なお菓子を召し上がれ？｜リアクション

不思議なお菓子を召し上がれ？

「それじゃあえっと、凪さんも金平糖を食べたのですか」
「そう……」
「さっきいきなり服を脱ぎだしたのは？」
「自分の……力……使える……試したい……」
　どうやら凪は特殊なろっこんを持っているようで、その為に服を脱ごうとしていたらしい。
　痴女でなかったことにほっとしつつも、悪戯ずきの姫は少し物足りなくもあった。
「せっかくだから私は男子トイレにでも入ってくるです」
「！」
　凪は驚いて首を振るが、姫はにやにやと笑うばかりだ。
「実は私、今男なのです」
「……姫、男？」
「金平糖のせいです。だから男子トイレにだって入れるのです」
　それでも心配そうな顔をする凪に、姫も流石に冗談だ、と笑い飛ばさざるを得なくなった。
「じゃあ代わりに凪さんと写真でもとりましょう」
　云うが早いか、姫は凪のふくよかな身体をぎゅっと寄せ、トイレの鏡の前でポーズを取った。
「はい、チーズ」
　鏡越しにフラッシュが光ると、姫は満足そうにスマホの画面を眺めた。
「ふふー、良く撮れてるです」
「……姫」
　振り向くと、凪が自分の携帯を持ってスタンバイしている。
「私も……一緒、撮る」
「なら今度はポーズ変えましょう」
　すっかり仲良くなったふたりは、鏡の前からしばらく動かなかった。

　外へ出た凪と姫は、気の赴くままにぷらぷらと町を歩いていた。
　最初は元の体に戻れるか気にしていた凪も、
「まあ放っておけばじきに戻るでしょう。そうでなかったらあの商売人を問い詰めるのみです」
　という姫のスタンスに流されていた。
（それに……ちょっと…………楽しい）
　いつもの自分と少し違うだけでこんなに心が弾むのかと、凪は驚いていた。
　勿論、それは姫のおかげでもある。
「ねえねえ、今暇？　オレ達とどっか行こうよ」
　こんな風にふたりで歩いていると、古典的なナンパに幾度も会った。
　凪ひとりだとびくびくしてしまうが、姫は難なく男達を撃退してしまう。
「ごめんなさいです、こう見えて僕、男の子なんですよ」
　にっこりと笑った姫は、ことの成行きを見ていた凪を引き寄せた。
　そして目にもとまらぬ早業で、頬にちゅっとキスする。
「そしてこっちは僕の彼女。という訳なので、折角のお誘いですがお断りです」
「え、ああ……はい」
　それで大抵の男は怯んで去ってしまうのだ。
「ありがとう……姫」
「いいのです。でも」
「……で、も？」
「考えてみれば男でないとできない事ってあまりないですよね。強いて云えば背徳感？　凪さんは男になってしてみたいことってあります？」
　凪はしばらく考えたのち、
「……力持ちに、なる？」
　と、答えた。
「ですよね。あんまりしたいことないんです。まあただでさえ可愛い私に男の娘の要素が加わったら、向かうところ敵なしなんですが……」
　ナルシスト全開で話していた姫だったが、ふと、自分の体に目を向ける。
「ん、胸が元のサイズに。凪さんは……って、あらあら」
　まるで風船がしぼむように、凪の胸はしゅうっと縮んでゆく。
　身長も少しずつ小さくなり、姫より高いくらいで止まった。
「どうやら効果が切れたみたいです」
「良かった……戻った」
　ぺたぺたと自分の身体を触って確認すると、凪は姫にちょこんとお辞儀をした。
「今日……いっぱい、ありがとう……。遅くなる……帰らないと……」
「確かに、もう日暮れですね」
　空は茜色を通り越し、夕闇が迫っていた。姫が空を仰ぐと、凪もつられて上を見た。
「姫……また、遊ぶ……」
「じゃあその時までにとっておきの遊びを考えておくです」
　小さく手を振って別れたふたり。
（今日のこと……話そう……）
　恋人に報告するのを楽しみにしている凪と違い、姫は、
（凪と一緒にできるいたずら。さてなにをしましょう？）
　男の娘でも女の子でも、考えていることは相変わらずだった。