不思議なお菓子を召し上がれ？｜リアクション

不思議なお菓子を召し上がれ？

　その頃、カノエはカメラの持ち主を探して辺りを見まわっているところだった。
「くっそ、見つからねえ。まあ簡単に落とし主が見つかるほうがおかしいんだけどよ」
　そこへやって来たのは、幼い赤ん坊・凛を連れたやもめ男―もとい刀である。
「酒と煙草と……残るは女？　でもお、女……女ってどうすれば」
「あぶぶぶ！（おっちゃん、男は度胸だよ！）」
　赤ん坊ながら刀を元気づけようと必死な凛は、ちょうど前方を歩いているカノエに目をつけた。
（もう、しょうがない！　拾って貰った恩もあるし、一肌脱いであげるよ！）
　凛はすうっと息を吸うと、突然、びえびえと泣き始めた。
「ど、どうしたんだよ急に」
　刀は驚いてあやし始めるが、どうしたって凛は泣きやまない。
　耳が割れるような凛の泣き声に、カノエも凛に目を向けた。
（よし、きた！）
　凛はそれを確認し、泣きながらカノエのほうに手を伸ばす。
「あうあああああ！（さあ、私の渾身の演技を見よ！）」
　自分を必死に求め（ているように見え）る凛の姿に、カノエの母性が疼いた。
（な、何だ！？　この気持ちは……）
　カノエはそのまま凛に近づくと、暴れる凛を刀の腕からそっと抱き上げた。
「よ、よーし、よーし……」
　刀よりも不格好なあやしかただったが、それでも凛は満面の笑みを見せる。
　カノエの頬がふにゃりと緩んだ。
「ふふ、そうか。お前嬉しいのか」
「うう、あぶぶう（あら、きれいなお姉さん。ちょっと目つきが悪いけど）」
「おいちびっこ、お前なんか嫌なこと考えなかったか？」
「ば、ばぶう！？　（ば、ばれてる！？）」
「しっかしお前、赤ん坊の癖に髪の毛真っ黒だなあ。声も良く通るし、将来は歌手なんてどうだ？」
「あ、あぶう……（こ、この人私のこと知ってる……？　見透かされてる気がするよ……）」
　鋭すぎるカノエに凛も怖くなり、今度は早く回収しろと云わんばかりに刀へ手を振った。
「あう、あうああっ！　あぶうぅ（ほら、おっちゃん、今だよ！　美女が私のスマイルにやられてる今のうちだよ！）」
　凛の想いが届いたのか、刀が遠慮がちにカノエに近づいた。
「あ、ありがとう。子供の世話は慣れていなくて……」
「俺も慣れてる訳ではないんだが、まあ良かった」
　改めて顔を見合わせたカノエと刀。
　刀はカノエの美貌に目を見張っているが、カノエははてと首を傾げた。
「なんかお前、初めて見た気がしないな」
「！」
　刀はくるりと後ろを向くと、凛に小声で話しかける。
「なあ、今のって口説き文句か？」
「あう？　ああぅ（え？　違うと思うんだけどな）」
「これは大人の男になるチャンス……！」
「あああう……（絶対勘違いだよう……）」
　刀はもう一度カノエに向き直ると、わざとらしく前髪を掻きあげる。
　それが大人の男の仕草だと信じ込んでいるのだ。
「あの、ブロンドのお姉さん。よければ俺と……」
「ん？　おい、ちょっと黙れ」
　別の通りから漏れてくる声を聞いたカノエが、刀の口を塞ぐ。
（お、大人の女って大胆！）
　だが、カノエにそんなつもりは毛頭ない。

「あのそちらに落し物が届いていませんか？　……はい、はい。探しているのはカメラなんですが」

　ぴんときたカノエは、手を放すとすぐに声の聞こえた方へ駆けてゆく。
「悪い、用事ができた。俺はこれで。じゃあな赤ん坊、お父さん困らせるなよ」
「あうー……（あー、うん……）」
　ひらりと去ってゆくカノエの背中を、刀は呆然自失のまま見送った。
「なあ、俺、やっぱりお前の父親に見えるか……？」
「あ、あうあう（まあ、割とね）」