不思議なお菓子を召し上がれ？｜リアクション

不思議なお菓子を召し上がれ？

「何だろう、あの屋台」
　不思議に思い近づいてみると、小さな屋台いっぱいに金平糖の瓶が並んでいる。
　夕日に照らされた地球瓶がきらきら光り、雨寺凛は思わず目を細めた。
「いらっしゃい」
　声をかける店主の顔は暗くてよく見えない。
「金平糖だ！　きれい……」
　色とりどりの金平糖にすっかり目を奪われた凛は、せっかくだからと小銭をとりだした。
「すみませーん、えっと、このいちょうってのを下さい！」
「はいはい、少々お待ちを」
　店主は大きな地球瓶をあけて匙で金平糖を掬うと、小壜に分けて凛に手渡した。
　小銭と引き換えに小壜を受け取った凛は、揚々と屋台を後にする。
「早速食べちゃお！　……うん、見た目も素敵だったけど味も美味しい！」
　一粒食べ、もう一粒。凛の手は止まらず、小壜の金平糖は少しずつ減ってゆく。
「やっぱり甘いものはいいなあ、いくらでもいけちゃう！」
　夕焼けに照らされた自分の影。
　それが少しずつ小さくなっていることに全く気付かないまま、凛は十四粒めの金平糖を口に入れた。
「！」
　急に足ががくりと落ち、立てなくなる。
（あれ、どうしたんだろう。別に痛くなんかないのに。とにかく助けを呼ばなくちゃ）
「あ、あうあうあ」
　誰かいませんか、と喋りたいのに言葉が出てこない。
（ちょっとどうしたの！？　これじゃあまるで……）
　凛はおそるおそる自分の身体を見回した。
「あう！　ばぶばー！？　（なんで私、赤ちゃんになってるの！？）」
　よちよち歩きをしながら右往左往している凛の視界が、急に高くなった。
「あう？」
「……どうしたんだ？　迷子か？　それとも」
　凛のすぐ上にある顔は端正だ。抱きあげられた腕は逞しく温かい。
（あれ、誰かに似てるような？）

　凛が赤ん坊になる少し前のこと。
　御剣刀は川の傍でたそがれている最中だった。

（気が付いたらおっさんになっていた。何を言っているのか分からないだろうが俺にもよく分からない）

　持っている小壜には、ききょうの金平糖が入っていた。刀はそれを忌々しそうに睨む。
「原因は多分、この金平糖だよな？　あの親父胡散臭いと思ったんだよ！　でも懐かしくてつい買っちまった……」
　大きく溜息をついた刀は、しかしそれで何やらふっきれたようだ。
「まあ、今考えてもどうにもならないしな。せっかく成人越したんだし、大人の男っぽいことをしよう。大人になったら楽しむ物……酒と煙草と女か？」
　先ずは一番興味があるお酒から、と参道商店街を目指す方の耳に、遠くから赤ん坊の声が聞こえた。
　駆けつけてみると、道端ではいはいをする赤ん坊がいた。不審過ぎる。
「まさか、お前も金平糖食べたのか？」
　真っ黒な目をくりくりさせて刀を見つめてくる赤ん坊に、刀は首を傾げた。
（なんかこの顔、見覚えがあるような……）
　抱き上げると、赤ん坊になった凛はあぶあぶと何かを喋りながら刀の顔を触った。
「あぶあぶあ！（絶対絶対見たことあるのに！）」
「うわあ、おいちょっと、やめろって」
　赤ん坊凛を持て余す刀だが、ここにひとり置いておくわけにもいかない。
「しょうがない、一緒に連れていくか」
「あぶあ！　ううああ！（やった！　ありがとうおっちゃん！）」
「けど、行き先は俺の自由だ。俺の大人の男ライフに付き合うんだぞ」
「ううあー（分かったよー）」
　気を取り直して凛を抱きなおすと、刀は目当ての酒屋へ向かった。

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