不思議なお菓子を召し上がれ？｜リアクション

不思議なお菓子を召し上がれ？

「こっちかなあ、これもいいなあ」
　女の子が好きそうな可愛らしい服屋。
　そこでリリアが服を選んでいる中、穂月は所在なさげにうろうろとしていた。彼女の買い物に付き合わされる彼氏の図、そのままである。
「よければ奥の方に男性のお洋服もありますよ。ご案内します」
　親切な店員が声をかけてくれたので、穂月はほっとしてそちらへ向かう。
「わあ、確かに……これは大人かも」
　そこには、テレビに出ている俳優たちが着ているような、スタイリッシュな洋服がディスプレイされている。
　穂月は自分の着ているパーカーを見て、少しだけ顔を赤らめた。
（かっこいい服着たら、ちょっとは追いつけるかも）
　初恋相手が脳裏によぎり、穂月もリリアに負けず劣らず、洋服選びに没頭し始めた。
　シャツやジャケットを手にとって、鏡で合わせてみる。
（しかしこの高い背、筋肉…この声。「俺」って一人称にしたくなるなぁ、えへへ…）

　一方リリアは、試着室で選んだ服を合わせていた。
「やっぱり大人の洋服ってかわいい♪」
　裾にレースがついた白のワンピースに、少し厚手のアイスブルーのコート。
　ふわふわの白い髪にはリボンのバレッタがつけてある。
「色が白いから、とってもお似合いですよ。今日合わしていらした中では一番だと思います」
「ほんとですか？　じゃあ、これ下さい！」
　リリアは店員にそうお願いしたが、洋服をまとめてもらっている時にはたと現実に戻った。
「そうだ、お金……」
　ちょうどその時、自分の服の会計を終わらせた穂月が様子を見に来た。
「お、リリもいい服見つかったんだね」
「うんでも……お金なくて」
「え！？」
「キャンセルしなくちゃ……」
　さっきまでの元気が嘘のようにしょんぼりしているリリアを見かねて、穂月がレジの前へ出る。
「お会計になります」
　出された金額をお札で払ってしまう穂月を、リリアはびっくりして眺めていた。
「はい」
「穂月お金持ちなんだね……。でも、いいの？」
「金平糖くれたじゃん。そのお礼」
「あ、ありがとう！」
　リリアは洋服の袋を嬉しそうに受け取ると、「でも」と続けた。
「さすがに貰いすぎだから、今度うちのカフェに来て！　ごちそうするから♪」
「へえ、カフェやってんだ。絶対行くよ」
「約束だよ！　ちゃんとすきな人も連れてきてね♪」
「うんもちろ……って、え！？」
　うろたえる穂月にリリアは得意げだ。
「すきな人いるんでしょ？　金平糖見ながらずっとにやにやしてたもん。その人にあげるんでしょ」
「いやちが……っ、か、家族だよ！　カフェも家族と一緒に行くから！」
　店を出て歩きながら、穂月は話題を変えようと辺りを見回す。
「あ、そ、そうだ。プリクラ撮ろうよ今日の記念に。せっかくだからさっき買った服着てさ」
「いいね！　撮ろう撮ろう！」
　真っ先にゲームセンターに入ってゆくリリアにほっとしつつ、穂月も後を追ってすぐに中に入った。

　そろそろ日も落ちる頃。ゲームセンターから出てきたふたりは笑いながら撮ったプリクラを眺めていた。
「あー、面白かった！」
「僕も！　でも、いつになったら元の姿に戻るんだろう、これじゃあ帰ってもびっくりされちゃう……あれ？」
　何だか身体が軽くなった気がして、リリアは自分の体に手を当てた。
「あ、戻ってる」
「え？」
　聞き返した穂月の背も、しゅるしゅると縮んでゆく。
「お、おおお！　縮んでゆく……」
「でもこれでお家に帰れるね。今日はありがとう穂月、今度はカフェに遊びに来てね♪」
「うん、またなリリ！」
　ばいばいと手を振って別れた後、穂月はうきうきしながら金平糖の瓶をとりだした。
　とっくに不思議な力は切れていると知らないまま、初恋の人の驚いた顔を想像する。
「この金平糖、食べさせるの楽しみだな……！」

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