不思議なお菓子を召し上がれ？｜リアクション

不思議なお菓子を召し上がれ？

「昔うちのかみさんと映画を見に行った時にねえ、ロケ地になった谷に行って映画の再現をやりたい！　なんて話になってねえ……。あの時は悪天候になって大変だったねえ」
　いつものように妻のことを話すピーター・ビアズリーの隣で、椎名あさひはにこにこごきげんだ。
　ふたりがいるのは寝子島映画村。
　映画村と聞くと時代劇に限定されがちに思えるだろう。
　しかし実は、ＳＦやファンタジーまで様々な世界観を堪能できるのだ。
　ピーターに連れられ映画村へ足を踏み入れたあさひは、目を惹かれたものがあればとことことそちらへ向かい、胸に下げたレトロなカメラで大すきな写真を撮る。
（お母さん、「今日は遅くなってもいいけど、我儘云って困らせちゃだめよ」って云ってたなあ。だけど、ピーターおじさんをこまらせたことなんてないよねぇ……？）
　マイペースなあさひに合わせて歩き、後ろで見守るピーターをあさひは見上げた。
「どうかしたかな、あさひ君」
「ううん、なんでもない」
　のんびり施設内を歩きながら写真を撮っていると、あさひは気になるのぼりを見つけた。
「ピーターおじさん、あそこでお洋服が借りられるよ！」
「おっと、ここじゃ衣装も着せてもらえるのかい？」
　連れ立って中へ入ったふたりは感嘆の声をあげた。
　着物からドレス、着ぐるみ、果てはどう着るのかも分からない近未来的な服。
　それがずらりと揃えられていたのだ。
「うわあ、すごいねぇ！」
「よりどりみどり、と云ったところかな」
　あさひはドレスの飾られているブースに立ち寄ると、1着1着目を通していった。
　その途中で、手がぴたりと止まる。
「これ、すごくかわいい」
　取り出したのはエルフの衣装だ。金髪のカツラや長いつけ耳までついている。
　ひらひらと透きとおる衣裳にあさひはすっかり釘付けだ。
「ピーターおじさん、あさひこれがいい！」
「おお、良く似合いそうだね。それじゃあお店のお姉さんと着替えておいで。私もその間に衣裳を選んでおこう」
「うん！」
　手を振りながら試着室へ向かうあさひを見送り、ピーターも本腰を入れて衣裳を見繕う。
（せっかくだし普段できないような格好がいいなあ。そうだ、あさひ君とお揃いのファンタジーで、剣士なんて良いんじゃないか）
　ガラスのケースの中にディスプレイされた剣士の服を見て、ピーターは立ち止まった。
　銀色の甲冑や長い剣、ひるがえる赤いマントはお姫様を守るにふさわしい。
（まあ、剣士でもおじさんなんだけどね）
　自分の心の声に苦笑しつつ、ピーターは係の人に「すいません」と声を掛け、ディスプレイを指差した。