野良猫ボン太の恋わずらい｜リアクション

野良猫ボン太の恋わずらい

　——ボン太が恋か……。まぁ猫も恋はするからなぁ……発情期だと特に。
　八神修もネコッターを通じて、大体の事情を把握していた。
　——他にボス猫になりたい猫がいないあたり、街が根本的には平和な証拠だが、このままだと人にも猫にも優しい寝子島じゃなくなってしまうな……。
　今日は時間もある。修も散歩がてら、モモを探してみることにした。
　商店街のお店で、新鮮な生魚とマタタビ粉を購入。猫を見かけたら、マタタビ粉をあげて「モモを知らないかい？」と聞いて回る。……まあ、美野梨と違って、猫語はサッパリなので、なんとなくの気分だ。
　商店街の人たちにも、モモのことを尋ねてみると、居所はすぐにわかった。花が好きな猫なので、よく花屋さんのまわりにいるらしい。
　——花が好きなんて、かわいい猫だな。ボン太も高嶺の花に惚れたってわけか。
　花屋の前に着くと、そこには先客がいた。能美子だ。

　自分にも何かできることをして、協力したい……そう思った彼女は、にゃーくんを見守る円と別れ、ひとりモモを探していた。
　その手には、先ほど店で買った高級猫缶。いつもにゃーくんにあげている餌より高級品だ。
「……モモ。あなたに話があるの」
　呼びかけると、にゃーん、と可愛らしい声が聞こえた。花屋の店先に並んだ花の陰から、綺麗な白猫がちょこんと顔を出した。
「あなたがモモちゃん？　お、お腹減ってない？　ほらほら～」
　辺りに人がいないことを確認してから、普段のツンとした彼女からは想像もできないようなデレデレの声で誘う。モモは足下に寄ってきて、美味しそうに猫缶にありついた。
「な、撫でても大丈夫……よね？」
　おそるおそる撫でると、モモは気持ち良さそうに目を細める。
「あ、あはは……人懐っこい子……」
「この子がモモか」
　気がつけば、真横に立っていた修に、ぎゃあ！　と能美子は声を上げた。
「お、おい……変な声出すなよ。モモが驚くだろ」
「え、あ、な、なんでもないわよっ！」
　能美子の顔は真っ赤だ。
　——あんな声で猫可愛がってるとこ見られるなんて……し、死にたい……！
　そんな彼女の胸の内など知らず、修はモモの頭を優しく撫でた。
「噂通りの美人さんだな。ほら、俺もお土産持ってきたぞ」
「にゃーん」
「……おっと、可愛がるのはあとにして、他の奴らにもおしえてやらないとな」
　ネコッターで、モモに会えたことを呟く。ボン太のところに連れてくか、それともどこかで落ち合うか。相談しようとしていると……かなえと荒太郎も遅れて現れた。
「こーたん、ここや。あ、モモちゃんおったー」
「あ……あれがモモちゃん？　ん……あれー、やがみん？　こんなところでどーしたの？」
　荒太郎は、修に気づくと人懐っこい笑顔を見せた。
「ああ、ネコッターでボン太のことを知ったんだ。散歩がてら、力になれそうなら、力になろうかなって……ええと、君もそうなんだろ？」
　話を振られて、能美子は目を逸らした。
「……ま、まぁね」
「そうなんだー、ふたりともありがとう。おれたちも、モモにお土産持ってきたんだよー」
　ふたりはモモに会う前に、いろいろなお土産を用意していたらしい。荒太郎の腕の中には、高級猫缶、煮干し、しらす等……モモが気に入りそうな食べ物がたくさんあった。かなえのほうは、家で作った豆腐と油揚げだ。
「モモ、今日はモモに紹介したい猫がおって来たんや。ボン太って猫がモモと友達になりたいって言っててな」
「ボン太はああ見えていい奴なんだよ〜。この辺じゃボス猫で、みんな幸せにしてくれるしー」
「……雨崎」
「だからきっとモモちゃんも仲良くなれると思うんだー」
「……おい、雨崎っ！」
「え、どうしたの、やがみん？」
　荒太郎はまわりを見回して、息を飲んだ。
　気がつけば、殺気立った野良猫に周囲を囲まれている……！
　かなえはハッとして、自分たちの抱えているものを見た。
「あ、あかん！　野良猫が食べ物に釣られて集まってきたで！」
「うわー、こんなに野良猫がいっぱいじゃ困るよー！」
　野良猫は４人から食べ物を奪うと、それを奪いあってケンカを始めた。
「やめて、やめてったら……！」
　かなえは必死に止めようとするが、ちょっと止められそうにない。
「うう、全然ケンカやめてくれへん……。そ、そうや。こーたん、ボン太、連れてきて！　ボン太ならきっとケンカを止められるはずやで！」
「で、でもー……」
「大丈夫。モモちゃんはうちが護ってるから！」
「俺もいる、雨崎は早くボン太を……！」
「わ、私もいるんだから問題ないわ……！」
　修と能美子も、かなえに続くと、荒太郎は頷いた。
「うんー、皆、頼んだよー……！」

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野良猫ボン太の恋わずらい

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