あやかし学校運動会｜リアクション

あやかし学校運動会

「カエルジュースは私が貰いますわ！」

　九尾の狐の設楽千聖はレースを前に力強く宣言していた。

「ああ、でも走る必要があるのですね。この私が汗を流して走る……
　なんて恐ろしいのかしら、さっさと終わらせましょう。
　……といっても誰と組めばよいのかしら……」

　千聖はパートナーを求めて、あやかしでごった返す周囲を見渡す……

　そこには人ごみに呑まれ、騒々しさに辟易としている、静寂を愛する鵺（ぬえ）の忍野弦月の姿があった。

「……あら！　そこの方！　ちょうど良いところに。
　貴方も今一人かしら？　組んであげてもよろしくてよ？」

　弦月は己の価値観とは真逆のような存在に声をかけられたことにびっくりした。

「名乗りもせず『組んであげても良い』とは、礼儀知らずな。
　それに、なぜ騒がしい場所から避けるために騒がしい者と組まなくてはいけないのか……」

「まぁっ！騒がしいですって！？　レディに対して何て言い草かしら！
　それに私の名前が知りたいのでしたら、まず自分が名乗るのが良いんじゃありません？」

「ああ、独り言だ。忍野弦月だ。よろしく頼む」

　ああ言えばこう言い、ともすれば喧嘩になってしまいそうな２人だったが、どこか気が合い、ペアを組む事となった。

「……ふむ一つ老婆心で忠告するが、君には「和」の心が足りない。
個を重視する事も時には大事だが、集団においての秩序や調和、相手への礼儀を忘れてはいけない。
協力する競技ならば必要な事だと思うが……」

　精神論をこんこんと語る弦月に対し、千聖はあくまでマイペース。

「良い？　私が汗をかかないように、息を合わせて、且つ、速く走ってくださいませね。
　私が必死になるなんて、美しくないですもの！」

「一人でぐいぐい進もうとするくせに、汗をかかすな、それでも速く等、できるわけがなかろう」

　ただでさえ和服で走りにくいのに加えての千聖の我がままである。弦月はやりにくい事この上ないが、これも修行と半ば
諦めて、千聖の言いたいようにさせている。
　一方の千聖は、黙ってしまった弦月に調子を崩してしまう。

（……組んだのは良いのですけど、ちょっとやりにくいですわ……
　掴み所がないというか、素っ気なさ過ぎて何考えてるのかさっぱりですの……）

　ギクシャクしながらも２人はウォーミングアップを済ませ、スタートラインへと足を進める。