ねこでんのある風景｜リアクション

ねこでんのある風景

＝＝18時頃寝子島駅＝＝

「お願い、待って！」
　ドアが閉まるギリギリのところ、真境名アリサはねこでんの車中へ飛び込みました。
「危険ですので駆け込み乗車はおやめください！」
　駅員のぶっきらぼうなアナウンスが入りましたが、とにかくセーフです。
　電車は無事本土へ向けて動き出しました。
　
　勤め先の開店時間は７時半だけど、開店１時間前にキャストは店に入るのがルールなので、余裕を見て出発……のはずだったけど、ちょっと寝坊したので電車に駆け込み乗車する羽目になったのでした。
「はあ、はあ……」
　あまりに全力でダッシュしちゃったものだから、ちょっとばかりしんどいアリサです。でもって凄まじい形相で車内へ飛び込んだものだから、視線が痛い……
　けれどアリサは曖昧な笑みを浮かべてその場をごまかし、適当に空いた席に座りました。
　肩には大きめのトートバッグ。その中には細々した身の回りの品の他に、この前新調した商売道具……店で着る水着が数着ほど入っています。

　なめらかに車窓の景色が流れ、規則正しい音と揺れと共に電車は走ります。
　夕暮れの中少しずつネオンがともり、空は橙から深く黒っぽい青へと色を変えていきます。
　少しずつ日が短くなっているのが秋の訪れを感じます。
　なのに、バッグに入っているのは、可愛らしいフリルのついたパステルカラーの花柄ビキニと、タイダイ染めのリゾートビキニ、定番の白ビキニにメタリックな質感のビキニ……と、その他色々。　
（仕事柄、制服みたいなものとはいえ季節感ゼロと言うか……）
　内心苦笑するアリサです。
　でも今の仕事は割と性に合っているのと、給料も悪くないので、しばらくは続けるつもりなのです。少なくとも、前に勤めていたブラック企業よりははるかにマシなので。
（……あれは本当にひどかった）
　入社一カ月で退職。その後さまざまな仕事を経て、アリサは一年程前に寝子島に移り住んできたのでした。
　
　本土のネオンが見えてきています。
　アリサは頭によぎる過去から意識を引き戻しました。
（昔は昔。店に着いて着替えたら、お客さんたちを迎えなくちゃね）

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