テスト勉強なんかよりチャーハンが食べたいです。｜リアクション

テスト勉強なんかよりチャーハンが食べたいです。

「こないでぇ！　変態カメラおやじ！」
　黒い傘を広げて視界を遮る少女――恵御納夏朝の別人格、夏夜は大げさに騒ぎ立てていた。
　驚いたのは板野だ。
　確かにろっこんを使おうとカメラを構えた。
　だが、目の前の少女はいきなり傘を広げたかと思えば、自身を痴漢呼ばわりしたのだ。
「お、お嬢ちゃん！？　無断で撮影しようとしたのは謝る！　だからこれ以上、騒がないでくれ！」
「いやー！　近寄らないでー！　その脂ぎった手で僕の口を塞いで何をする気なの！？　どうせいやらしいことでしょ！？」
　震えながら声を荒げる夏夜。
　……勿論、これは演技。
　こうすることで板野が狼狽するのを待っていたのだ。
「ち、違う！　そんなつもりじゃない！　濡れ衣だ！」
　変質者呼ばわりでもされたら、ますます店の評判が悪くなると心配した板野。
　しかし逃げるとさらに誤解が広がりそうであるし、目の前の少女は泣き止まない。
　更には大声でわめく夏夜の声に、周囲で捜索していた面々が駆け付けてきてしまった。
　自然と包囲網が完成してしまい、板野は袋の鼠状態に！
「くそ！　こうなったらヤケだ！」
　板野はカメラを構えて手当たり次第に撮影を試みる。
　ろっこんを既に把握されているので、追跡者はうまく物陰に隠れるなどして回避行動をとった。
　しかし、１人だけ平然と前に進み出る少女がいた。
　無論、板野のろっこんの餌食となってしまう！
「……なるほど、これが店主のろっこんか」
　旅鴉月詠は、白いコートをなびかせながら涼しい顔でスタスタと進んでくる。
　板野は首を傾げた。
「なぜだ……！？　嬢ちゃんは、チャーハンのことで頭がいっぱいになってるはずだ！　どうして取り乱したり喚いたりしないんだ！？」
　慌てた板野の足が完全に動きを止めた。
　そして夏夜はこの瞬間を待っていた。
「きゃぁー！　このロリコンがー！」
　夏夜は傘をすぼめながら、内側に顔を潜らせつつ突撃！
　まるで騎馬の上の騎士めいた強力な突きが、板野の股間にクリーンヒット！
　小柄な彼女が屈むと、ちょうど傘の先端が股間の高さになっていたのだ。
「ココナッツッ！？」
　謎の言葉とともに板野は『く』の字になって飛び跳ねだした。
　そこへ突然、１匹の黒猫が背後から飛び掛ってきた！
　額に三日月型文様があるその猫は、板野のカメラを体当たりで叩き落せば、翻した体で三角飛び、そのまま顔面に飛び掛った！
　板野はそれを振り払うように地面に転がる！
「ええい、観念するんや、おっちゃん！」
　黒猫はたちまち鍋島奈々美へ変身したではないか。
　彼女は血液（赤羽が採取した血液の小瓶を携帯しているのだ）を５秒間舐めると、黒猫になれるろっこん『奈々美キャット』のもれいびなのだ。
　だが、このろっこん、１つ欠点がある。それは……。
「きゃー！　本当にロリコン変態おやじだー！」
　夏夜は傘で板野のお尻をザクザクと何度も刺した。
　何故ならば、地面を転がった際、全裸の鍋島を板野が押し倒していたからだ。
　彼女の変身は、身に付けている衣服は対象外！
　つまり完全にアウトである。
「ちょ……おっちゃん！？　なんやねんこの体勢！？」
「こ、これこそ誤解だ！！　ってお尻を刺すのはやめてくれ！」
「「問答無用！」」
　夏夜がお尻を傘で全力刺突すれば、鍋島はグーパンチを繰り出す！
　更に後ろから後木と赤羽がタックルを仕掛けて板野を押し潰す。
「コックなのだ炒飯喰わせろなのだ上から下まで全メニュー持って来いなのだ～」
　後木のボディプレス！
「さあ、豚カルビにキムチ、天津飯風にあんかけ！　とにかく炒飯を作れ！」
　赤羽のヒッププレス！
　一番割りを食っているのは鍋島だった。
「誰かー！　ウチの服を持ってきてー！　てかめっちゃ重いー！」
　駆け付けた面々は、このカオスに目を瞬かせていた。
「やれやれだぜ……」
　如月が溜息を付けば、駆け付けた小倉もなかと貴家衿花がハモった。

「「これはひどい！」」