桜並木の商店街｜リアクション

桜並木の商店街

◆
うららかな、春の休日。
心地良いそよ風に桜がひらひらと舞うなか、参道商店街は賑わいを見せていた。
今日は桜祭り。
商店街の住民も、そうでない人も。
ぱーっと楽しく過ごすための日。

◆
商店街の入口付近で、立ち尽くす影が一つ。
正確には、その肩に乗ったもう一つの影があった。
光村日向と、猫のコトラだ。
「えっと……どこから回ろう……」
知り合いも参加しているだけに、かえって悩ましい。
そんな彼の悩みを、知ってか知らずか。
コトラは彼の肩から飛び降りると、一声鳴いて商店街へ。
「あ、コトラ……！　まって……！」
慌てて追いかけるが、すぐにその小さな姿は見えなくなってしまったのだった。

◆
「意外と難しい……」
わりばしを手に、七音侑は真剣な面持ちでわたあめを作っていた。
「追っかけなくていいぜ。こうやって一か所で回すだけで、わたあめは勝手に集まってくる」
その横でコツを伝授しているのは、龍目豪だ。
二人は今日、見ての通りわたあめの出店を出していた。
丁度お客さんの切れ目ということで、侑のわたあめ作りの練習中だ。
「なるべく上の方で回すと、ふわふわした大きいのができるぜ♪」
「うに……なるほどです！」
龍目のアドバイス通り、機械の上の方でわりばしをくるくる。
するとどうだろう。
ふわふわとして大きく、美味しそうなわたあめが見事完成したではないか。
「できましたよ先輩！」
「初めてにしちゃ上出来だ。それ食べていいぜ」
「ありがとうございますー！」
嬉々として、わたあめにかぶりつく。
「おいしー」
自分で作ったわたあめだけに、美味しさもひとしおなのだろう。
「よし、じゃあ一回練習したところで手入れするか！七音も覚えとけよ」
「はい先輩！」
「っていっても、そんな大したことするわけじゃないんだが」
ふきんを一枚お湯につけ、しぼってから機械を掃除。
「ザラメはこびりつきやすいからな。こうやってこまめに拭いたりしとくと、片付けが楽なんだ。それを覚えとくんだ」
「はーい！」
あとそうだ七音、と龍目が何か言おうとしたその時、ちょっとタイミング悪くお客さん。
「わたあめ、一つもらえるかしら」
三年生で生徒会の、葵水姫だ。
「葵先輩、今日は生徒会でお祭りに？」
喋りながらも、せっせと手を動かす龍目。
「ええ、そんなところよ。……あら、体験もできるのねここ」
そう、龍目と七音のわたあめ屋、実は体験もできるのだ。
「先輩もやってみます？」
「やってみたいのはやまやまだけど、遠慮しとくわ。ザラメがついちゃったら大変だもの。ね、七音さん」
「うに？」
何故自分に振られたのかわからず、首をかしげる侑。そんな彼女を見て、龍目がしまったという顔をする。
「ごめん七音。さっき、俺それ言おうとしたんだ。……髪、ざらめで白くなってるぜ」
「あや？ほんとですか？」
ごそごそと携帯を取りだし、自分の頭を写メ。
撮影した画像を見て、他人事のようににゃははと笑う侑だった。

水姫がわたあめを買って去った後、龍目から渡されたタオルで頭を拭いていた彼女は、見知ったふわふわ赤毛、コトラを絶賛捜索中の日向を発見した。
「おーい、光村さーん」
「あれ、七音さんに龍目先輩……ええっ、わたあめ……できるんだね……！」
「お、光村か。どうだ、体験もできるけどやってかないか？」
龍目の言葉に、日向は残念そうに笑う。
「したいけど……コトラ探してる途中だから ……いくね」
「そっかー、見つかるといいねー！」
七音に見送られ、コトラを探す旅に戻った日向。しかし、程なくして引き返し、彼は驚く二人に言うのだった。
「そうだ……一つ、ください」

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