レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―｜リアクション

レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―

「ふぅ……どうにか一段落だな。少しリラックスしよう」

　そう言って刀はキッチンに向かい、カップに注いだ何かをトレーで運んできた。

「お勧めの安眠法って言ったらホットミルクに蜂蜜だろう。ホットミルクと言っても寝る前だし少し温いくらいがいいかな」

　王道中の王道である。
　実直で真面目な性格の刀らしいといえばらしいが。
　みんな、ホッと一息ついた。

「眠れない時は、膝枕とか一緒の布団に寝るとか、人の温もりを感じられるようにするとすぐに眠れますよ」

　そう言って刀に近づいてきたのは翼である。
　まずは膝枕から挑戦です、と刀に横になるよう求める。

「どうです？ボクの膝枕は気持ち良いですか？」
「ええと……う、ううーん」

　邪気のない笑顔の翼に対して、困り顔の刀。　　

（膝枕か……されるのはいいんだけど、慣れていない人にされてもちょっと警戒と言うか緊張して眠れない）

　それに、翼は小学5年生。
　背が低いので相対的に座高も低い。
　つまり顔や胸が他の人に比べて近くにある訳で、刀にしてみれば眠るどころではないのである。

（夕鈴ちゃんに膝枕されても寝られないんだよ）

　翼の方は、なかなかいい感じではないかと判断して次の行動にでた。

（穏やかな雰囲気で頭を撫でてあげると、より気持ち良くなって眠れると思うのでナデナデします）

　と、刀の黒いショートの髪をなでていたのだが、そのうち彼女自身に眠気が忍び寄ってきた。
　しばらくは耐えていたようだが、前に屈みこむように寝落ち。
　するとどうなるか。
　刀の頭に覆いかぶさるように、胸がムギュっと……。

「ひゃぅ、ご、ごめんんさい。ボクが寝ちゃいそうになりました」
「いや、俺の方こそ悪い」

　刀とて健全な男子高校生である。
　最近の小学生は発育が良いな……などと思ってしまっても無理からぬことであろう。
　そこで、嬉しいとかラッキーではなく、申し訳ないと思ってしまう所が、刀の誠実さであろうか。

「膝枕だとボクが起きてなくちゃいけないので、今度は一緒の布団で寝る添い寝を試してみましょう」

　翼は向き合って身体を押し付けるようにピッタリとくっついた。

（人の温かさを感じていると落ち着いて眠くなってくるハズです）

　翼の心づもりとは裏腹に、刀は途方に暮れていた。

（だから添い寝も寝られないんだって）

　ここまででもうお気づきの方も多いとは思うが、翼は別に刀に気があるとか、ましてや誰にでもこうした行動をとるビッチであるとか、そういうことでは決してない。
　彼女はまだ異性からの目を意識していないのである。
　だからこそ、膝まで来る裾のYシャツ（下はストライプ柄のパンツのみ）などという格好をパジャマにしているのだ。
　小学5年生という彼女の歳を考えると、少々性的な事柄への精神的な成長が遅れていると言えるかもしれないが、彼女にやましいところは何一つとしてない。
　そのことは、刀もよくわかっている。

（しょうがねえな、夕鈴ちゃんの頭をポンポンと撫でながら寝るまで付き合うか）

　刀が保護者のような気分でいると、すぐに翼は眠りに落ちたようで、刀はほっと胸をなでおろした。

「パパ……」

　寝言のようだ。
　頬に一筋の涙跡がある。
　普段、家を空けがちだという両親を恋しく思う気持ちを、胸の奥の奥に鍵をかけて閉じ込めているのだろう。
　伝えきれない想いが、頬を伝う。

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