ココデハナイ、ドコカ｜リアクション

ココデハナイ、ドコカ

「な、なによここ……」

　弘明寺能美子もまた、この奇怪な『商店街』にいる自分に気がつきました。
　確かに彼女は、参道商店街自体にあまり足を運んだことがありません。とはいえこの場所が、参道商店街ではないことくらい容易に理解できました。
　さっきから、住民と思われる人間がつぎつぎ、能美子の後をついてくるのも気になりました。最初それはたった一人で、杖をついた老人でした。知らない顔です。この老人を通りを曲がって撒いたところ、今度はまた見知らぬ少女がついてくるようになったのです。また撒いても同じ、別の人間がついてくるようになりました。そればかりか、だんだんその数が増えていきました。
　つかつかと近づいていって「何の用！？」と言ってやりたい気もしないではなかったのですが、彼らの顔色は総じて悪く、目は虚ろで生気がなく、声をかけるのがためらわれました。
「気味が悪い……何もかも」
　能美子は携帯を取り出して、もう一度確認してみます。
　やはり、さっきと同じでした。
　圏外、そう表示されています。こんな場所でそれはありえないと思うのですが。これではねこったーへのアクセスもできない。
　しかも……。
　能美子は叫び出しそうになるのを必死で堪えました。
　携帯に表示された時間が、まったく進んでいないのです。一分も。秒のカウントもフリーズしたみたいに止まっています。
　そればかりか朝充電してきたばかりだというのに、もう電池残量がほぼゼロになっていました。
　さっき確認したときから、体感時間では十分程度しか経過していないはずです。あのときはまだ充分に電池残量はありました。
　まともじゃない。
　能美子は悟りました。
　まともじゃないところに、自分は迷い込んでしまった。
「！」
　はっと能美子が顔を上げると、それまで遠巻きに尾行していた住民たちが、こちらに駆けてくるのが見えました。
　まるで「知ったね？　知ったからには生かしてはおけない」と言っているかのようです……。

　陸枷藍はぺろっと舌を出しました。舌先で、乾いた唇を舐めて湿らせます。
　なんだか面白いことになってきた、というのが第一印象。
　音楽プレイヤーで音楽を聴きながら歩いていたら、なんとも変なところに迷い込んでしまったようです。
　いくら歩いても出口がなく、そればかりか一度来た道に、いつの間にか戻らされるという堂々巡り、そんな不思議な商店街。ここでは時間が止まっており、いつまでも夕方のようです。一幅の絵に迷い込んだのかもしれません。往けど戻れど現実の世界には帰れそうもない。
　そこで悲観したり絶望したりしないのが藍という少年です。
　帰り道はそのうち見つかるさ、とばかりに、観光気分で歩き出したのでした。

　椿美咲紀はぽかんと口開けて、空を眺めました。
　そして周りをきょろきょろ、見回しました。
　頭上には見慣れぬ紫色の空。
　周囲の情景にもまったく覚えがありません。
　通行人はぱらぱらと数人あるばかりですがいずれも、じろじろと不躾な目をこちらに向けてきます。
　不審者を見る目ではありませんね。
　あれは、隙さえあれば襲いかかろうとしている目と思われます。
　しかしさすがは宮司の娘、たちまちのうちに美咲紀は状況を理解したのです。
「大禍時(おほまがとき)に神隠しな領域へ紛れ込んでしまったようですね」