ココデハナイ、ドコカ｜リアクション

ココデハナイ、ドコカ

　市橋誉と神狩カフカ、黒依アリーセの三人と、弘明寺能美子、御剣刀、椿美咲紀の三人、合わせて六人は合流を果たしていました。
　やはり目印はワンボックスカーです。どこからか忽然と現れて、凄まじい速度で走り抜けたのです。それを追っていくことで、両者は出逢うことができました。
　互いに友人もいます。けれど再会を喜ぶ暇もあらばこそ、大きな音が前方でしたので、彼らはそちらへ急行しました。
　途中の道は、黒い砂利を敷き詰めたのかと思うほど砂まみれの状態でした。その黒いこと、じゃりじゃりすること、これまでなかったほどです。暴走車が綺麗にならしていったのだと思います。
　その車は、ある一点で停止していました。大きくハンドルを切りながら急ブレーキを踏んだもののようです。タイヤの焦げる音が今なお残っています。
　さらには車の周囲に、途中の道以上に黒い砂や袋が散らばっていました。車が倒した以上のものがあると見受けられます。どうやら自動車とは別に一隊があり、異界の住民たちと激しい戦闘を繰り広げたものと考えてよさそうです。
「おやまた奇っ怪、車は無人でさァ」
　いち早くワンボックスカーのドアを開け、カフカはしかめっ面をしました。
「中の人間は忽然と消えたのか、それとも元から乗ってなかったのか……」
　刀は顎に手を当てます。するとカフカは、
「ああ、そりゃァ、消えたんじゃないかって思いやす。なぜって」
　カラン、とカフカが放り出したものがありました。工事現場で使うような大型シャベルです。これを背にくくりつけていたと思わしき紐がからみついていました。
「こんなものが車内に残されていたからでさァ」
「あきらかに車内には、人がいた形跡がある、ってことだな」
　刀が言うと、美咲紀が言葉を引き継ぎました。
「ここの『ヒト』たちが車が運転できるとは思えないことからして……私たち以外の生存者がいて、なんらかの理由で消えたと見るのが蓋然性が高い推測でしょう。願わくば全員、無事でいてほしいものですよ」
「見て！　あれ、寝子島神社への石段じゃない？」
　アリーセが西の道を指さしました。そこにあるのは確かに、神社へ続く石段でした。異界にあってもこの道は、彼らが知る参道商店街を抜けた場所と同じ構造のようです。
「ということは私たち……目的地に到達できた、ってことね」
　能美子の目が輝きました。胸が熱くなります。
　ここまで、決して楽な道のりではありませんでした。それでもようやく、世界の核と思われる場所へ来ることができたのです。
「俺たちの力だけで、来ることができたのではないだろうな」
　誉は振り返って、この場所にいたであろう人たちのことを思いました。誉は続けます。
「あの車を走らせた人たちがいる。ここの敵を一掃した人たちもいるようだ。おそらくは彼らの奮闘が、俺たちに道を拓いたんだ」
　確証があるわけではありません。けれど神社までたどり着けばなんとかなる……そう希望を抱き六人は石段を登っていきました。
「ループは発生しないわね」
「これが正しい道だからと思いたいな」
　と会話を交わす能美子と美咲紀の声も弾んでいます。
　されども彼らの希望はその中途で、文字通り行き詰まってしまったのです。
　土砂崩れが発生していました。
　木の根や岩、黒い土が折り重なって行く手を塞いでいます。これは元来た世界にはなかった光景です。この『寝子島神社』だけに
　どうあがいても、これ以上前進はできない。
「確か、このあたりに鳥居があったはず……『これをなんとかして』……というのが神社からのメッセージじゃないかしら」
　アリーセは言いますが、しかし、と刀は疑問を呈しました。
「進めない状態でどうすればいい？　あの不安定そうな土砂崩れを登って、頂上から掘っていくというのは、簡単な作業じゃないろうな」
「なんなら僕が。身の軽さはちょっとしたもんでさァ」
　と、カフカが身を乗り出しかけたときです。
　声がしました。
「俺なら……正しくは俺の能力なら、できると思う」

　鮮やかな黄金の髪、透き通る菫色の瞳、その人はあまりに美しく、どこか儚げで、非現実的な存在にすら映るのでした。
　そうです。
　五十士柊斗です。
「やっと追いつけた……俺も、皆さんと同様の身の上なんだ」
　と名乗って、柊斗は簡単に自身の『ろっこん』を明かしました。
　そうしてカフカからシャベルを受け取ると、六人には「万が一のときのために下がっていて」と指示して柊斗は単身、まったく重力を感じさせない軽やかな足取りで土砂崩れを登っていきました。
　彼が赤い鳥居の一部を掘り出したのは、シャベルを突き入れてわずか三回目のことでした。
　
　そのとき、変化がもたらされました。

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ココデハナイ、ドコカ

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